他の記事を読む

イラク開戦前と似た感じ

2007年2月13日  田中 宇

 記事の無料メール配信

 1月31日のUSAトゥデイに「イランがイラクの反米ゲリラに武器を供給している証拠を、イラク駐留米軍が見つけ、ブッシュ大統領に報告した」という記事が出た。(関連記事

「しかし、報告された証拠の多くは、専門家が信憑性が疑う不確実なものだ」とも指摘しているこの記事は、米軍が「イランがイラクの反米ゲリラに武器を供給している証拠」として挙げたものの一つとして「RPG−29」と呼ばれる携帯式対戦車ロケット弾の件があると書いている。米軍司令官が「イラクのゲリラが使っているRPG−29を押収したところ、イランで作られたことを示す製造番号が刻印されていた」と述べたと報じている。

 これが事実だとしたら、イラクのゲリラをイランが支援している証拠になる。しかし、そう考えるには、決定的な無理がある。それは、RPG−29がイランでは製造されていない、ということである。RPG−29はロシアで開発されたが、イランの製造技術では、それより古い型のロケット砲であるRPG−7しか作れない。

 米軍が、イラクの反米ゲリラからRPG−29を押収したことは事実だが、それはイランからではなくレバノンから来たものだ。ロシアは1999年ごろ、当時まだアメリカの敵ではなかったシリアに対し、大量のRPG−29を売った。それが後に、シリアの隣国レバノンのシーア派武装組織ヒズボラに流れ、昨夏レバノンでイスラエルとヒズボラが戦争したときに使われて、イスラエルの戦車を破壊した。この戦争では、イラクからシーア派のマフディ軍がヒズボラの援軍としてレバノンに行き、お土産にRPG−29をイラクに持ち帰ったと推測される。(関連記事

 何かイランを攻撃する口実がほしいブッシュ政権は「RPG−29はイランが作ったに違いない」と強弁したわけだが、こうした歪曲は、イラク侵攻前に、よく調べると間違いであるさまざまな情報を組み合わせて「フセイン政権は大量破壊兵器を作ろうとしている」と主張していたのと同じ構図である。

 ブッシュ政権内では2月上旬「イランがイラクの反米ゲリラに武器を供給している証拠」をマスコミに発表しようとしたが、ライス国務長官らが「薄い根拠を発表することは、イラク侵攻の時の過ちを繰り返すので、やめた方が良い」と進言し、2回にわたって発表が延期された。発表資料の中に新しい「証拠」が加筆され、その新証拠も怪しげだからまだダメだという再差し止めが繰り返された。(関連記事

▼ばれるウソを繰り返す戦略的自滅

 ブッシュ政権は結局、新しい理屈を考え出して、対応しようとしている。それは「イランの介入に関して、人々を納得させられる確実な証拠を持っているのだが、それを発表すると、敵国イランを有利にしてしまうので機密扱いせざるを得ず、発表できない。機密保持が守られる連邦議会の関係委員会の議員にのみ閲覧してもらう」というものだ。議会では、大半の議員がイランとの戦争に反対していないので、議員だけに見せるなら「こんな証拠はインチキだ」と強く批判されることはない。(関連記事

 マスコミに対しては、米国防総省がバグダッドで2月11日、大手マスコミの何人かの記者に対し、イランがイラクの反米ゲリラに対戦車ロケット弾を供給している証拠について、実際のロケット弾を「証拠の品」として見せながら、非公式の説明を行った。しかし、発表はそのまま記事にすることを許されない「匿名の担当者によるオフレコ」の形式で、「証拠の品」の撮影も許されなかった。記者たちは、説明の内容自体に納得せず、イランの対イラク介入についての米政府の説明は信憑性が低いとする記事がいくつか出された。(関連記事

 このバグダッドの記者説明の実施については、米軍の制服組の最高位であるペース統合参謀本部長も、事前に知らされておらず、しかもペースは「反米ゲリラの武器の一部がイランから流入しているのは確かだが、イラン政府がそれに関与しているという証拠はない」と述べている。(関連記事

 米軍で実戦を担当する制服組幹部は、イランとの戦争は無茶なのでやりたくない。バグダッドでの記者説明会は、制服組幹部の頭越しに、その上のホワイトハウスからバグダッドの現場将校に命令が直接に下って行われたと考えられる。こうした頭越しの命令も、イラク侵攻の前後と同じである。

 その一方で、国防総省の監察官は2月9日、ブッシュ政権がイラクに侵攻する理由として03年の侵攻前に発表した、アルカイダとイラクのつながりなどの開戦事由について「(とにかくイラクを侵攻するんだという)政権高官の政治的な要求を満たすため、信憑性の低い情報を使った不適切な諜報文が作られた」と結論づける調査書を発表した。ブッシュ政権がイラク方式の誇張によってイランを攻撃しようと画策している矢先に「イラク方式は悪いやり方だった」とする調査書が出てきたということである。(関連記事

 常識的に考えて、人間は、一度やってばれた不正行為を再びやろうとするときには、不正の手口を変えるなどして、ばれないように工夫する。だがブッシュ政権は、前回と同じ手口を繰り返し、ばれてもかまわないという感じで、イランに侵攻する口実を作っている。やり方ががさつだとか、無能とか稚拙という範囲を超え、意識的に同じ手口を繰り返している印象を受ける。私は以前から「ブッシュ政権は、軍事・外交・財政という全ての面で、意図的に失敗し、アメリカを自滅させようとしているのではないか」と感じているが、そのパターンがまた現れている。(関連記事その1その2

 世の中には「アメリカは昔から、でっち上げの理由を使って戦争してきた。イラク侵攻とイラン侵攻の理由の作り方が似ていても、別に驚くことはない。きみはアメリカを知らないね」と、したり顔で言う専門家もいるが、私が気にしているのはその点ではない。アメリカが毎回、でっち上げの理由で戦争をやっても、その理由がうまく人々に信用されて「アメリカは常に正義で、常に勝つ」という神話が世界的に信じられている間は、アメリカの世界支配はうまく機能する。

 しかし、ここ数年間のように、開戦の理由がでっち上げだとばれてしまうのと並行して、戦争も失敗して泥沼に陥り、アメリカの軍事力が浪費される事態が、イラクの次にイランでも繰り返されるのだとしたら、世界支配力(覇権)の裏づけとなっている「軍事力」と「信頼性」が失われ、アメリカは世界を支配できなくなる。アメリカの信頼性は、ドルの強さと表裏一体なので、今の状況が続くと、いずれどこかの時点でドルも大幅下落する。

 ブッシュ政権の危険さは、ウソをついていることではない。ばれるようなウソをつき、ばれたのにまだ同じウソを繰り返して、アメリカの信頼性を急速に浪費しているところにある。米国民は、ブッシュ政権の危険さに早く気づき、弾劾などでブッシュとチェイニーを早く失脚させないと、アメリカを壊され、アメリカ中心の世界体制や日米同盟も崩壊する(今から弾劾しても、たぶんもう遅すぎるだろうが)。

 親米の人ほど、ブッシュを危険視すべきなのに、実際には逆に、親米を看板にしている人ほど、ブッシュは危険だと指摘する人を「反米論者」「左翼」として攻撃する。間抜けである。

▼乗せられるニューヨーク・タイムス

 イラク侵攻時の誇張・歪曲の手口をイランに対して繰り返しているのは、ブッシュ政権だけではない。米マスコミで最も権威があるニューヨーク・タイムスも、ブッシュ政権の誇張・歪曲戦略に積極的に乗ることを繰り返している。

 米マスコミのいくつかは「米政府は、イランがイラクの反米ゲリラに武器を供給していると言っているが、どうも証拠が薄い」という感じの記事を書いたが、ニューヨーク・タイムスは逆に、2月10日付けで「イラクのゲリラから押収した爆弾や爆破跡の分析、米軍が拘束しているイラン外交官への尋問などから、イランがイラクのゲリラに強力な爆弾を提供していることが分かった」とする記事(Deadliest Bomb in Iraq Is Made by Iran, U.S. Says)を出した。

 この記事を書いた記者(Michael R. Gordon)は、イラク侵攻前の2002年9月に「米政府は、イラクが核兵器を開発している証拠として、遠心分離器の材料になるアルミニウムのパイプを大量に発注したことをつかんだ」とする歪曲的な記事を書いた人物で、今回の歪曲記事は「再犯」である。このアルミのパイプは、実は遠心分離器とは関係ない(合法的な短距離ミサイルの材料だった)ことが後で分かった。国防総省内の高官(ネオコン)による歪曲を軽信して書かれたこの記事は「イラクは核兵器を開発している」という米側の主張の裏づけとして広く使われ、ネオコンにとってはイラク侵攻を挙行するために役立った。(関連記事

 前回も今回も、問題の記事の情報源はすべて「匿名の高官」になっている。情報を意図的に歪曲して開戦に持ち込もうとする好戦的な(アメリカを自滅させたい)政府高官が、匿名を条件に歪曲情報を記者に流して書かせ、ニューヨークタイムスは権威があるので読者もみんな騙される、という構図である。

 記者が歪曲やねつ造をしたのではなく、情報源である政府高官が歪曲された情報を流したのであるが、記者の側では、高官が歪曲しているかどうか判断できない。記者が複数の高官に話を聞いてチェックしたつもりでも、ブッシュ政権の中枢は、チェイニー副大統領を中心に集団で戦略的に歪曲をやっており、どの高官も同じ歪曲情報を流すので、チェックにならない。

 政府要員はマスコミにウソを言うと罪に問われるので、歪曲情報を流す高官は、匿名を条件に情報を記者に流す。匿名高官の歪曲情報にマスコミが乗せられたイラク侵攻の教訓から、米マスコミでは、匿名の情報源を使った記事の出し方に自主的な規制をつけている。だが、高官から特ダネ情報をもらったら記事にしたいと思う記者やデスクの心理が、自主規制を押しのけてしまう。イラクに次いでイランでも、ブッシュ政権の歪曲戦略に乗せられるニューヨーク・タイムスは、他の記者やアナリストから批判されている。(関連記事

 その後、ニューヨークタイムスの編集局では、歪曲情報を報じる危険性を重視したらしく、ブッシュ政権に対し、匿名の歪曲情報を流布することをやめて、イランの危険性についてきちんと米国民に説明すべきだと主張する社説(Iran and the Nameless Briefers)を2月13日に出している。

▼「裸の王様」との同一性

 ブッシュ政権内の歪曲情報に一番ひどく騙されているのは、たぶんブッシュ大統領本人である。大統領が騙されているので、ライス国務長官ら他の高官たちも、騙されたふりをしている。ニューヨーク・タイムスの編集者も、イラクの時と同じ手口でイランに関する歪曲情報が流れてきていることは気づいているだろうが、騙しに乗る方を選ぶ。これは、王様、家臣、一般市民の順番で騙しに乗らざるを得なくなるという点で、童話「裸の王様」の構図と同じである。(関連記事

「裸の王様」では、詐欺師の理屈は「王様の服が見えない人は、馬鹿か、自分にふさわしくない仕事をしている」ということだが、ブッシュ政権では「この開戦事由をウソだと言う人は、愛国心がないか、テロリストの味方である」という理屈を使っている。「裸の王様」では、世間の目を気にしない子供が「王様は裸だ」と叫ぶが、イラク侵攻時のブッシュ政権の歪曲話では、世間の目を気にしなくていい元軍人やCIAのOBや、インターネットで分析を書いているアメリカの「ウェブログ」の筆者たちが、ブッシュ政権は歪曲戦略について指摘した。

▼戦争を必要とするイスラエル

 ブッシュ政権は、イラクと同じ歪曲手法でイランと戦争する口実を作る一方で、ペルシャ湾の周辺に50隻という大量の軍艦を結集させている。アメリカの軍事衛星は、空爆の対象としてイランの1500カ所をモニターしている。空母もすでに2隻が結集しつつあり、さらに3隻目の空母も派遣されるという記事も出ている。(関連記事その1その2

 もはやイランとの戦争は確実だ、という記事も多く出ているが、その一方で、私から見ると「これはイラク侵攻前と異なっている」と思えることもある。それは、ブッシュ政権の高官や担当者が繰り返し「イランを攻撃することはない」と述べていることである。イラク侵攻前は、彼らは「イラクの問題は、できれば外交で解決したいが、必要なら侵攻も辞さない」と言い続けていた。(関連記事

 米政府がイランに対して言っていることは「アメリカの方から攻撃することはない」という意味だ。その一方でアメリカは、イランの方からの攻撃を誘発するよう、イラン側を怒らせる作戦を展開している。しかし、イラン側は細心の注意をはらって、アメリカの挑発に乗らないようにしている。挑発に乗るのは自滅だからである。アメリカの方から攻撃せず、イランの方からも攻撃しない場合、イスラエルがイランを攻撃し、アメリカを戦争に引っ張り込むしかない。

 イスラエルは、イスラム過激派との泥沼のゲリラ戦に引きずり込まれる懸念がしだいに高まっており、これを避けるために、アメリカにイランを潰させる必要がある。イスラエルの周辺は今、南隣のパレスチナではハマス、北隣のレバノンではヒズボラという、2つの反イスラエル・親イランの過激派勢力が強くなり、イスラエルと協調できるパレスチナのファタハ、レバノンのシニオラ政権という親米勢力は、いずれも縮小している。

 ブッシュ政権が立案したアメリカの軍事予算の今後の見通しを見ると、イラクの駐留費が今年、来年、再来年と減り続け、再来年にはゼロになっている。この予算見通しからうかがえることは、アメリカは09年には米軍をイラクから撤退させたいと考えているということだ。米政府が今展開している2万人の増派は失敗しそうだが、その場合でも、米世論におけるイラク駐留への反対は強くなるばかりなので、米政府はイラクから撤退する方向を模索している。(関連記事

 米軍がイラクから撤退したら、最も困るのはイスラエルである。米軍のイラク撤退は、ハマスやヒズボラ、イランにとって「大勝利」であり「アメリカが撤退したのだからイスラエルも潰してしまえ」とばかり、イスラエルに対する南北からの攻撃が強まり、ゲリラ戦の泥沼によってイスラエルは潰されてしまう。

▼チェイニーがスキャンダルに巻き込まれたら

 こうした最悪のシナリオを避けるには、アメリカがイラクから撤退する前に、イランとアメリカを戦争させ、イランを潰すしかない。アメリカの方から攻撃せず、イランも挑発に乗らないとしたら、アメリカがペルシャ湾に50隻の軍艦を結集している間に、イスラエルがイランを先制攻撃するしかない。

 アメリカでは今、チェイニー副大統領が、機密漏洩スキャンダルに巻き込まれ始めている。チェイニーが部下のリビーに機密漏洩を命じた時のやり取りや関係資料が、法廷で次々に暴露されている。このスキャンダルは一昨年ぐらいからくすぶっており、これまではチェイニーが有罪になることはなさそうだったのに、ここ2−3週間で、チェイニーはどんどん不利になっている。(関連記事

 チェイニーは、イラクやイランとの戦争を最も強く推進してきた黒幕的な存在だ。イスラエルが、アメリカとイランを戦争させるなら、チェイニーが有罪になる前にやらねばならない。イランとアメリカを戦争させるために、イスラエルがイランを先制攻撃する可能性は、しだいに強まっている。

(チェイニーが捕まってもアメリカの戦略的自滅が続くとしたら、チェイニーは政権内での黒幕でしかなく、その後ろにチェイニーを動かしている勢力が別にいるということである)

 東アジアでは6カ国協議の合意によって北朝鮮の核問題が解決されつつあるが、これによって「悪の枢軸」のうち、イラクに次いでイランが攻撃されても、それに誘発されて北朝鮮が暴発する懸念は大幅に減りつつある。ブッシュ政権は、中国を中心とする東アジアの安定を確保したうえで、中東での戦争を拡大しようとしている。

▼米軍に育てられたイラク軍が米軍と戦う

 イランとの戦争が始まると、イラクではシーア派のサドル師を中心とするマフディ軍が親イランの反米勢力として本性をあらわし、本格的に米軍と戦うようになるだろう。アメリカは今、イラク政府の軍隊を強化しようと、訓練や武器支援をしているが、イラク政府の軍隊には大勢のマフディ軍の兵士が入り込み、米軍の訓練を受けている。(関連記事その1その2

 イラク政府は、首相のマリキがサドル師の旧友で、2人は敵味方のふりをしているが、実はイラク政府の主力部分はぜんぶ親イランである。イランとアメリカが戦争を始めたら、彼らは陰に陽にイランの味方をするようになる。米軍は、自分たちが育成したイラク軍に、自分たちが与えた武器で攻撃される。これも、ブッシュ政権の自滅戦略の一つである。(関連記事

 バグダッドとクウェートの間にあるイラク南部には、イギリス軍が駐屯しているが、イギリス軍は5月にブレア首相の任期が切れる前後に撤退する。イギリス軍が撤退すると、イラク南部はマフディ軍の支配下に入る(すでに入りつつある)。アメリカがイランと戦争を開始した後、米軍がマフディ軍に攻撃されて苦戦し、クウェートに向かって退却せねばならなくなるころには、イラク南部はすでにマフディ軍が待ちかまえていて、退路をふさいでいる。米軍は撤退不能になる。(関連記事

 退路を切り開くため、米軍機が無差別爆撃をして、無数のイラク市民が殺されるだろう。アメリカはますます悪者になり、クウェートやバーレーンなどこれまで親米だったはずのアラブ諸国でも、自国内に基地を持っている米軍に撤退を要請するかもしれない。米軍はひどく疲弊した上、中東における拠点を失う。アメリカとイランの戦争は、米軍の疲弊と撤退によって終わるだろう。

 現時点で、イラクで疲弊した米軍の装備を更新して立て直すには、海兵隊だけで1280億ドルかかると、海兵隊自身が試算している。海兵隊の予算は04年実績で170億ドルだから、この再建費は8年分の予算に相当する。毎年の運営費を差し引くと、明日イラク占領が終わってその後全く戦争がなかったとしても、海兵隊の再建には10年以上かかる計算になる。今後、イランとの戦争が始まったら、戦後の米軍再建のコストはもっと増える。(関連記事

▼アメリカ抜きの中東の出現

 すでにイランは、イラクの混乱を、サウジアラビア、シリアなどスンニ派アラブ諸国との協調で、広域的に解決したいと表明している。アメリカがイランを攻撃し、イラン・イラクのシーア派連合軍に敗北して撤退した後は、アラブ諸国とイランがスンニ派とシーア派という対立を超えた連携をして、イラクの安定が実現すると予測される。アメリカ抜きの中東の出現である。(関連記事

 アメリカが中東の戦争に失敗し、撤退を余儀なくされている間に、ロシアや中国が中東諸国との関係を強化し、アメリカ抜きの中東の固定化に拍車をかける。世界は不可逆的に多極化してしまう。

 世の中には「イランと戦争したらアメリカの自滅になる。アメリカがそんなことをするはずがない」と言う人もいるが、そう考える人は、ブッシュ政権が911以来、すでに自滅的な行為を多方面で何回も繰り返してきた経緯を見落としている。03年のイラク侵攻も、泥沼化することは侵攻前から予測されていた。ブッシュ政権は、軍事・外交・経済の多方面で、全力で失策を繰り返してきた。それを考えると、最も破壊力のある自滅になるイランとの戦争を、ブッシュ政権があえて回避するとは考えにくい。

 ブッシュ政権がなぜ自滅したがるのかについて、私は「資本の理論」に基づいて世界を多極化したいからではないかという仮説を持っているが、これが正しいかどうか、私も確信はない。仮説にすぎない。(関連記事その1その2

 しかし、ブッシュ政権が意図的に失策を繰り返しているとしか思えないということは、毎日国際情勢をウォッチしていて、しだいに強く感じられるようになっている。事態がこのまま進むと、今後数年の間に、アメリカは覇権を失墜し、世界は多極化するだろうという予測が、私にとってほぼ確実なものと感じられるようになっている。



田中宇の国際ニュース解説・メインページへ