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北朝鮮とロシア

2023年12月27日   田中 宇

北朝鮮がロシアの協力で経済発展していきそうだ。北朝鮮とロシアが急接近したのは今年7月、ロシアのショイグ国防相が訪朝してからだ。訪朝の目的は、ロシアがウクライナ戦争で使う兵器を北から買い、見返りにロシアが北に軍事技術を供与する案件の推進だったと思われる。その後、北は弾道ロケット(ミサイル)・軍事衛星の打ち上げを繰り返し、ロシアの技術で軍事技術が向上している。
ロシアと北朝鮮の接近

9月には、東方経済フォーラム出席のため北朝鮮近くのウラジオストクにきたプーチンが金正恩と会った。11月には、それまで北京・平壌線だけだった北朝鮮の旅客機の国際定期便に、モスクワ平壌線が加わった。
12月には、遼寧省丹東の中朝国境でトラックの往来が再開され、コロナで停止していた中朝貿易が復活した。ロシア沿海州の経済代表団が平壌を訪問し、貿易・農業・観光など露朝間の経済活動の活発化について話し合っている。
ウクライナ開戦後、米国側に強烈な経済制裁されたロシアは、制裁で経済破綻するどころか逆に経済発展しており、人手不足になっている。韓国諜報部によると、北朝鮮はロシアに労働力を輸出する集団出稼ぎを再開している。北朝鮮は、ウクライナ戦争で破壊されたドンバスの街々の再建工事に労働者を派遣する準備があると表明してきた。
Russian Airlines To Launch Regular Flights To Pyongyang For First Time
North Korean and Russian officials discuss economic ties as Seoul raises labor export concerns

米国が北朝鮮やイラン、シリア、キューバなどを極悪視して制裁・転覆画策し続けるのは誇張歪曲だらけで理不尽だが、世界最強の覇権国だから黙認するしかないと考えている国は多い。ソ連崩壊からウクライナ開戦まで、ロシアもそうだった。ロシアは、米主導の国連の北制裁に賛成し、北への協力も最小限にしていた。
だが米国は、覇権が衰退しつつある中で、ウクライナ政府を傀儡化して国内ロシア系住民を殺し続ける策を2014年からやり続け、ロシアを正当防衛的なウクライナ侵攻(特殊作戦)に誘導し、猛烈な対露制裁を開始した。
資源の非米側が金融の米国側に勝つ

この過程でロシアは、米国の理不尽な制裁戦略を容認するのをやめ、米国の覇権を認めない態度に転換した。ロシアは中国と一緒に、米覇権衰退に備え、911と同時期の2000年から上海協力機構、リーマン倒産ドル崩壊後2008年からBRICSを作っており、露中結束やBRICSを基盤に、制裁されて米国側と永久に断絶しても経済を発展させていける非米側独自の経済システムの立ち上げを加速した。
米覇権がうまく回っているなら、替わりの非米経済システムは必要ない。だが米覇権は、今すでに政治経済の両面で破綻している。政治面は、米中枢(諜報界)が過激で稚拙な好戦派のネオコンに牛耳られ、米国が覇権を行使するほど世界が不安定になり、何も解決されない。
経済面は、実体経済の何百倍もの規模がある米金融システムが市場の需給でなく、米連銀が銀行救済名目で裏から資金注入(隠れQE)する資金で延命している機能不全の「ゾンビ状態」だ(金融バブルは騙されて買う人の需要で膨張するが、造幣依存の現状はそれですらない)。崩壊する米覇権に替わる非米的な新世界システムが必要だ。
多極型世界システムを考案するロシア

ウクライナ開戦から1年以上が経ち、政治経済の両面で非米的な世界システムの構築が進んでいる。政治面はBRICSを拡大し、米国側と非米側が衝突して機能不全の傾向である国連安保理の機能を代替しそうな勢いだ。経済面は、BRICS諸通貨での貿易決済やユーラシア内陸部の貿易路建設など、米国側と断絶した状態で非米諸国が経済活動できる態勢が、簡素だが形成されている。
ロシアがソ連崩壊後途絶えていた北朝鮮との交流を突然復活した今夏は、ちょうど非米世界システムの構築が軌道に乗りだした時期だった。ロシアは、ウクライナ戦争での武器弾薬不足や、露経済の成長で人手不足が深刻化したので、武器弾薬や出稼ぎ労働力を北朝鮮から買っただけ、と考えるのは多分近視眼的だ。
ロシアは、もっと巨視的・長期的に、北朝鮮を非米的な世界システムに招き入れるために、武器弾薬や労働力の購入を皮切りに北朝鮮に接近したと考えられる。
US claims North Korea provided Russia 1,000 containers of military equipment for Ukraine war

北朝鮮は核兵器を開発しており、北と貿易して資金を与えることは(米主導の)国連の北制裁決議で禁止されている。ロシアは北に軍事技術を与えて、北の核ミサイル・軍事衛星打ち上げロケットを向上させた。ロシアが北に接近したのは「国際法違反」と非難される。(北は、宇宙開発は国家の権利だと言っている)
だが、米主導の北制裁は、北に貿易を禁止しして困窮させ、北がますます好戦的に振る舞って朝鮮半島の軍事緊張を恒久化し、北を孤立させ、日韓を対米従属させるためのものだ。北制裁は極東を安定させない。米覇権は、これから崩壊が進んで日韓から撤退していくのだから、北制裁でない戦略が必要だ。ロシアはそのため(日韓のため??)に北に接近したともいえる。
North Korea Says Space Program Is a Sovereign Right, Vows to Defend Satellite

ロシアから北への軍事支援は、北の核兵器開発を前倒ししている。一見「けしからん」ことだが、よく考えるとそうでもない。北の核兵器はすでに完成しているかもしれないが、米国側は、北が完成していたとしてもわざと無視し、まだ完成してないと言い続けている。完成したら抑止力が確立し、核兵器保有国として認めざるを得なくなる。未完成なら、まだ北を軍事力で倒せる前提となり、米日韓の軍事費増額を進められる。
北の核が完成し、非米システム導入で経済的にも貧困を脱して発展していくと、北は米日韓に支援金をせびる必要もなくなる。経済発展は金家支配の政治正統性も強め、北を安定させる(逆に金家支配が崩壊したら、北はリビアみたいに半永久的に失敗国家になって韓国や中国に混乱が波及する)。
北が安定したら、南北和解が近づく。ロシアが北を非米システムに誘ったのは東アジアの安定策である。

ロシアは北朝鮮より先に、アフリカ諸国との関係を強化して、非米的な経済システムを導入してアフリカを繁栄させようとしている。アフリカ諸国の地下資源の開発を手伝い、その資金でインフラなどを整備する。これは中露協調でやっている。ロシアは、アフリカでやり出したことを北朝鮮に対してもやろうとしている。北にはレアメタルなどがある。
アフリカの非米化とロシア

近年の北朝鮮を支えてきたのは、ロシアより先に中国だ。北朝鮮に対しては1990年代に米国(クリントン政権)が日韓と組んで北に発電用軽水炉を作って核兵器開発用原子炉を止める策を進めていたが、911で好戦策に転じた子ブッシュ政権になって米国は北敵視に転換した。
代わりに北の面倒を見るようになったのは中国で、トウ小平式の自由市場策(経済自由化)を北(金正日)に勧めてやらせた。だが、経済を自由化すると政権の政治正統性がゆらぎかねない。中国は天安門事件(米国による政権転覆の画策??)を経験した。ソ連はゴルビーが政治まで自由化したら崩壊した。北が経済を自由化したら、そこから米諜報界が入り込んで北の転覆を試みかねない。
金正日は経済自由化に前向きで、経済官僚を登用して軍部を格下げしたが、正日の死後にあとを継いだ正恩は逆に進んだ。軍部にそそのかされた正恩は経済官僚を処刑し、軍部を再登用し、中国を遠ざけた。中国が北支援をやめると北が経済崩壊しかねないので、中国はやむを得ず黙って北に石油などを送る支援を続けた。
北朝鮮・張成沢の処刑をめぐる考察

今年ロシアは、中国と協議しながら北との関係を強化している。これは中露合同で北を非米側の仲間に入れる策だ。かつて中国は「市場主義」を北に勧めたが、今ロシアが北(やアフリカなど非米諸国)に勧めているのは「国家主義」「国家主導」の経済戦略だ。北朝鮮の金家は、自分たち(=国家)が中心でなければならず、国家主義は大好きだが、金家より市場(もしかすると米諜報界の「見えざる手」)が偉い市場主義は嫌いだ。北朝鮮には、トウ小平式よりプーチン式が似合う。
中国も習近平になってトウ小平式を棄て始め、毛沢東時代の国家主義を復活している。習近平は、中共上層部に残っているトウ小平派との暗闘があるので、米国主導の市場主義を否定して非米的な国家主義を標榜することをあまりやってない。非米側の経済システム作りはロシア発案になっている。これと連動して、今回の北との関係強化も中国でなくロシアが目立っている。
多極世界でロシアから中国を見る

今のロシアの前身であるソ連も、英米の覇権体制とは別の世界システムを、国際共産主義体制として百年前に作ろうとした。今のロシアの非米世界システムの構築提案は、百年前からのロシアのお家芸を継いだものだ。ロシアが世界システム構築の才能を持っているというよりも、内陸側のロシアが、海洋側の英米と地政学的に対立する存在なので、非英米的な世界システムの提案をロシアが担当している感じだ。
この見立てに沿って、ロシア革命から現在までの世界史の裏の流れを再構築してみようとしたのだが、途中で頓挫しているのと、今回の北朝鮮の話からかけ離れていくので、それは改めて考えて書くことにする。
資本の論理と帝国の論理



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