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米露首脳会談の中身は?

2025年5月19日   田中 宇

5月16日にトルコのイスタンブールで行われた3年ぶりのロシアとウクライナの停戦交渉会議は、予定通り、中身が薄かった。両国は、千人規模の捕虜交換を決めたが、それだけだった。ウクライナ戦争は、停戦せず今後も続く。
Russian Delegation Satisfied With Ukraine Talks Outcome, Ready to Continue Dialogue

トランプ米大統領は、ウクライナのゼレンスキー大統領を加圧して出席させた。ゼレンスキーは当初、プーチンも来るならイスタンブールに行っても良いと言っていたが、プーチンは来なかった。ロシア側は3年前と同じ下級の代表団だった。
プーチンは、下級の代表どうしで交渉して合意できたらゼレンスキーと会っても良いと言っている。ゼレンスキーは領土の譲歩を拒否しているので下級どうしで合意できない。
Russia's Maximalist Demands At Istanbul Peace Talks Revealed

「ゼレンスキーがイスタンブールに行かないならウクライナへの軍事支援をやめる」とトランプが脅すので、仕方なくゼレンスキーはイスタンブールに行った。
トランプはちょうど中東歴訪の帰途で、イスタンブールに寄れた。トランプは、立ち寄って停戦交渉を仲裁するかもと言いつつ、結局寄らずに素通りした。
トランプとプーチンに弄ばれて怒るゼレンスキーを、世話役のトルコのエルドアン大統領がなだめた。米露に対する外交得点をあげたエルドアンは、兵器類などの見返りを期待できる。
'Long-term Peace & Security' - Putin Defines Russia's Goals of Military Operation in Ukraine

ウクライナ戦争は、長期化するほど英欧の覇権勢力(エリート支配)が破綻していく。プーチンもトランプも、英欧の覇権が潰れて世界の多極化が進むのを望んでいる。
トランプは、ウクライナ停戦を公約して当選したので、頑張って停戦を仲裁する演技を続けているが、演技だけだ。プーチンも、トランプと密通しつつ演技している。ゼレンスキーも、停戦しない限り任期切れなのに大統領を続けられるので、停戦したくない。
Ukraine - Negotiation Failure Plus Other Items

イスタンブールでの停戦交渉が不発に終わったので、トランプが怒ってウクライナへの軍事支援をやめるとか、ウクライナ抜きでプーチンと米露首脳会談して勝手に停戦を決めるとか、そういう展開になるのだろうか。
そうではないような気がする。トランプはゼレンスキーを捨てずに使い続ける。それはたとえば、バンス副大統領が5月18日にゼレンスキーと会って仲直りしたことからもうかがえる。
ゼレンスキーは2月末に訪米した際、バンスに引っ掛けられてトランプ政権と喧嘩してしまい、大統領府から追い出された。バンスとゼレンスキーが会ったのはそれ以来のことだ。
Vance & Zelensky Repair Relationship In 'Good' Vatican Meeting

バンスはおそらくトランプに命じられてゼレンスキーと仲直りした。これまでトランプ政権のゼレンスキー担当はキース・ケロッグだったが、露敵視な親ウクライナ(英傀儡)なので政権から軽視されてきた。
たぶん今後はバンスがゼレンスキーを担当して動かす。トランプは、ウクライナを敗北させずに軍事支援し続ける。ウクライナを停戦させるんだという演技を引っ込めていきそうな感じもする。
Trump Plan Seeks To Resettle Up To A Million Palestinians From War-Ravaged Gaza To War-Torn Libya

しかしトランプは、ウクライナ停戦の話をするために急いでプーチンと首脳会談する必要があると言っている。米露政府は首脳会談の準備を進めており、5月中に実現しそうだ。トランプの返り咲き後、プーチンとの初会合になる。
トランプもプーチンもウクライナ停戦したくないのに、急いで会うのはなぜなのか。おそらく、ウクライナ以外で緊急の議題があり、真の議題を隠しつつ、ウクライナの話で会うと言って米露首脳が会うのだろう。
Trump wants to meet Putin ‘as soon as it can be set up’

真の議題は何か。ガザ戦争。それ以外にない(イラン核問題は米国と合意しそうになっている)。
ガザ市民が餓死していく中で、急いでガザ市民の移住先を探して決め、米露の差し金でサウジUAEなどアラブ諸国がガザ市民の集団移住で合意し、アラブ諸国がハマスを加圧して同意させる。
集団移住が決まれば、イスラエルはガザ市民への食糧配給の再開に同意する。何も決まらなければ、イスラエルは冷血にガザ市民を餓死させる。
Witkoff Told Mediators That the US Won’t Force Israel To End Gaza Slaughter

アラブ諸国を説得するには、トランプだけでなくプーチンの口添えが必要だ。トランプは先日の中東歴訪で、アラブの主導役であるサウジUAEの上層部に対し、アブラハム協定の中東安定化の実現のために、イスラエルが望むパレスチナ抹消を容認してほしいと説得した。
その説得がある程度うまくいったので、トランプはプーチンと直接会って協力を要請し、米露とアラブでガザ市民をどこかに集団移住させる話を具現化したいのでないか。
US developing plan to move 1 million Palestinians to Libya, NBC News reports

これは、私の推測というか妄想だ。しかし、こういう展開にならない限り、これからガザで何十万人もの市民が餓死していく。
Trump: 'People are starving' in Gaza, US will address it



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