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911から25年のイスラエル覇権拡大とサウジ潰し

2026年9月13日   田中 宇

2001年の911テロ事件から25周年の記念日にあたる9月11日、サウジアラビアの東西パイプラインが無人機で攻撃され、サウジアラビアの石油輸出能力が大打撃を受けた。
無人機はイラクから砂漠を越えて飛来したが、イラクのシーア派の親イランな武装組織連合は9月12日に攻撃を否認した(もし我々がやれたなら名誉だが、我々はそんなに強くないと残念がりつつ)。
US Officials Confirm Saudi East-West Pipeline Attacked By Drones, Badly Damaged

攻撃者は不明だが、イラン戦争の一環である感じだ。イランから直接に無人機を飛ばすことも可能だ。911記念日の攻撃ではあるが、25年前の911事件を意識した感じはない。911事件はスンニ過激派の仕業、今回のパイプラインはシーア派のイラン系の仕業だ。
スンニ派の過激派の中には、アルカイダ後継のISなどシーア派を不純な背教者として敵視殺戮する勢力もある。イランは911を記念信奉しない。アルカイダやISはイラン戦争に関係ない(彼らは最近、アフリカで内戦を煽っている)。
911テロ事件と今回のサウジ石油輸出妨害攻撃は、25年間の時を経てつながっているが、それは別の点(黒幕側)においてだ。それは、イスラエルが911以来の25年かけて米諜報界を乗っ取り、その果実の一つであるイスラエル中東覇権拡大の一環として今のイラン戦争と、イランやフーシ派を使ったサウジ石油潰しをやっていることだ。

9月10日には、イエメンの紅海岸の港湾都市モカが、親イラン反サウジなフーシ派によって占領された。9月11日には、モカの近くの、紅海の出入り口にあたるバブエルマンデブ海峡を睥睨するイエメンのペリム島(マユン島)も占領した。
フーシ派はこれで、イエメンの紅海岸をすべて掌握した。バブエルマンデブ海峡を通るタンカーなどの船を監視、攻撃できる体制を一気に強めた。フーシ派はこれまでも断続的に海峡のタンカー航行を阻止してきたが、その策略が今後常態化する可能性が高い。
Houthis Seize Yemeni Port Of Mocha, Gaining Greater Leverage Over Bab Al Mandab Strait

サウジがホルムズ迂回路として東西パイプラインで紅海岸に出した石油は、紅海とインド洋(アデン湾)を隔てるバブエルマンデブ海峡を経由しないとアジアに輸出できない。紅海を逆方向に進んでスエズ運河やエジプトのパイプラインと地中海経由でも出せるが、コストがさらに高い。所要時間もかなり長い。

サウジは、今回の東西パイプライン攻撃と、モカやペリム島の占領により、ホルムズ迂回の紅海ルートも決定的に妨害されるようになった。
サウジは東西パイプラインを修復できたとしても、そこからインド洋に石油を出せない。タンカーのAIS(船舶自動識別装置)の電源を切って「ダーク」な状態にすれば、沿岸からの監視を逃れられる可能性が増すので、ダーク船団方式でインド洋に石油を出す動きがある。
だがダーク方式は、見つかると攻撃される高リスクなのでやりたがる船主が少ない。ダーク船団はケプラーなど国際船舶追跡機関の調査から漏れがちなので総量が不確定だが、ホルムズもバブエルマンデブも通行量は開戦前の2-3割程度かそれ以下だろう。
ホルムズ海峡の騙し

ホルムズ海峡の最も狭い部分が50kmなのに対し、バブエルマンデブ海峡の最も狭い部分は30kmしかない。フーシ派は、夜間航行のダーク船団を、レーダー探知機や赤外線カメラ搭載の無人機、偵察船による目視などで見つけ出せる可能性が高い。
ホルムズ沿岸のイラン革命防衛隊は国家機関だが、フーシ派は国家でなく反政府民兵団だ(イエメンの政府はフーシ派敵視のサウジの傀儡で、フーシ派より弱い)。フーシ派は防衛隊よりも国際法に縛られない。ホルムズよりバブエルマンデブの方がタンカーにとって厳しい状況だ。

タンカーは紅海内のサウジから出港せねばならないので回避不可だが、サウジと無関係にアジアと欧州をつないでいるコンテナ船など他の貨物船は、フーシ派から航行許可を得ている中露勢などを除き、バブエルマンデブ海峡(とスエズ運河)を完全に放棄し、時間がかかるアフリカの喜望峰回りで航行している。

サウジは最悪の場合、東西パイプラインとバブエルマンデブ海峡を使った迂回路をあきらめざるを得なくなる。パイプラインの修復に時間がかかり、修復しても再攻撃を受けるかもしない。パイプラインが完全復旧しても、その先のバブエルマンデブ海峡の通行がおぼつかない。
東西パイプラインからスエズ運河やエジプトのパイプラインを通って地中海、アフリカ喜望峰回りでアジアに石油を運ぶルートは、長距離でコスト高だが低リスクだった。しかし、このルートも今回、東西パイプラインの破壊と、修復後の再攻撃の可能性でリスクが高まった。

原油は長期の安定供給が大事だ。安定供給できる良質な石油が好まれる。開戦前のサウジ原油は、まさにそれだった。しかし今、サウジは安定供給できなくなった。
「今月はダーク方式でけっこう出せた」という話をいくらしても、来月は全く不透明だ。イランが政権転覆しない限り、安定供給への信用は戻らない。

イエメンにいる親サウジな民兵団は、フーシ派に攻撃されて敗退している。役に立たない。サウジの権力者MbS皇太子はトランプ大統領に繰り返し電話し、米軍を派遣してフーシ派を掃討してほしいと頼んだが、今はダメだといって断られた。
トランプは代わりに米軍司令官らをサウジに派遣して軍事顧問団にしたが、対策会議をやっても敵のゲリラたちに勝てず、石油輸出路がどんどんふさがれていく。
MbS Begs Trump For Bigger Anti-Houthi Intervention, As Over 100 US Advisers On Ground

ホルムズ閉鎖はトランプ政権末まで続く。迂回路の頼りなさも今回決定的になった。サウジは今後ずっと輸出量を増やせない。2-3年で財政難が露呈する。サウジ王政が弱体化し、国内反乱や王政の転覆、リビアみたいな失敗国家化があり得る。
ホルムズ閉鎖は、イスラエルがトランプにやらせている意図的なサウジ潰し策だ。イスラエルは、イランの好戦派の革命防衛隊が弱体化しつつも政権を延命してホルムズ閉鎖を長引かせるように誘導している。
イラン戦争の長期化でサウジが財政破綻する

同時にイスラエルは、防衛隊政権のイランが傘下のイエメンやイラクの民兵団を動かしてサウジの石油迂回路を潰すようにも誘導している。
イスラエルはイエメン対岸のソマリランドに非公式な軍事基地を持ち、イエメンを監視し、必要に応じてこっそり支援したり攻撃して、紅海ルートを使用不能にし続けている。

ホルムズとバブエルマンデブの不安定な状況は、油田そのものにとっても被害が大きい。今のように海峡を航行できる可能性が変化する場合、産油国の石油備蓄設備が大きいほど、備蓄の増減で対応でき、油田(油井)そのものを開けたり閉めたりしなくてすむ。
いったん油井のバルブを閉めると、地下の石油層の圧力が低下し、次に産油を再開する時に、バルブを開けても石油が出てこず、時間をかけて少しずつ地下に注水したりして、石油層の圧力を高めねばならない。この作業をやるほど、落盤などで地層の状況が変化し、加圧しても石油が出にくくなる。バルブもいったん閉めると開かなくなる。

サウジは国内に1.5億ないし2億バレル分の石油備蓄設備を持っている(未発表なので欧米側の推測)。サウジの産油量(フル生産で1000万バレル。ホルムズ閉鎖後は700万以下)の3週間分ぐらいだ。
ホルムズとバブエルマンデブの完全閉鎖が3週間をはるかに超えて続くと、サウジは国内の油井を全部閉めねばならなくなる(スエズ側からは出せるのでその分は閉めなくてすむ)。
2海峡は完全閉鎖されず、輸出可能量が上下して不安定だ。東西パイプラインの閉鎖も起きる。全体として、何割の油井を閉めねばならないか不明で「賭け」の部分が大きくなる。油井を開けたり閉めたりせざるを得ず、油田の寿命を縮める結果になっている。

私は6月に「サウジを潰したいイスラエルは、イラン戦争の敵対度を増減させてホルムズ海峡を開けたり閉めたりして、サウジが油井の開閉を繰り返して油田を劣化させるよう誘導しているのでないか」という趣旨の記事を書いた。3か月たって、その分析が正しかったかもしれないと思える状況になっている。
ホルムズ開閉繰り返しで中東の油井を破壊する?

サウジ潰しは、イスラエルの中東覇権獲得策の一つだ。イスラエルはトランプの返り咲きの内定後、ガザ(と西岸)、ヒズボラ(レバノン)、シリア(アサド政権)、そしてイランと、自国周辺の脅威になりうる諸勢力を次々と潰している。
そして今、サウジも風前のともしびだ。サウジが潰れたら、イランは用済みになり、モジタバ・ハメネイの死と防衛隊政権のウソがバレて政権転覆(イスラエル傀儡化?)への道が用意される。
エルドアン政権のトルコは表向きイスラエル敵視だが、コーカサスでの覇権拡大でイスラエルに助けられ、その見返りにこっそりイスラエルの言いなりになっている。
モジタバ・ハメネイはすでに死んでいる

今のサウジは軍事力が米国依存で、イスラエルが恐れるほど強い国でない感じもする。だが今後もし米国が覇権崩壊するなら、サウジは資金力を活かして軍事大国になろうとするだろう。2023-24年には、中国がサウジを引っ張って大国化させようとしていた。
だからイスラエルは、サウジの石油輸出を数年阻止して政権転覆し、中共も恫喝した方が良いと考えたのだろう。
Russia quietly launches Arctic oil giant: What is Vostok Oil?

サウジなどアラブ諸国の石油輸出が阻止される穴埋めとして、親イスラエルなロシアや米国の産油量が増えている。ロシアは、日産200万バレル出せる北極圏のボストーク油田の産油を静かに開始した。トランプは傀儡化したベネズエラの石油産業を復活させている。
対照的に、イスラエル敵視な西欧諸国では今冬のガス備蓄不足が誘発されている。プーチンが含み笑いしている。
EU enters ‘winter panic’ mode as gas storage hits record low

▼イスラエル敵視の国を世界から消す覇権拡大策

世界を見渡すと、イスラエルを敵視・非難する国がどんどん減っている。トランプもプーチンも、イスラエルの言うことをよく聞く。印度も親イスラエルだ。中国の習近平は、脅されていやいやながら親イスラエルに転じている。
BRICS内の5大国の中で、ブラジルは10月の総選挙で、反イスラエルなルーラから、親イスラエル・親トランプなボルソナロに大統領が交代しそうだ。
Brazil's Socialist President Sees Lead Evaporating, New Poll Shows

残る南アフリカは、ANCのイスラエル敵視政権がしばらく続くが、割と親イスラエルな政党DA(民主同盟。白人主体)がしだいに力を増し、反イスラエルが薄れていく。
欧州は独仏英が、リベラル派でイスラエル非難を強める中道左右エリート2大政党制から、親イスラエルな極右政党(AfDやルペンやファーラジ)の政権に転換していく。英国系は消滅する。
Germany's Anti-Immigration AfD Party Reaches Record Support Days Before Pivotal State Election

日本は高市化によって英傀儡リベラルから外れ、親トランプ親イスラエル系に転じた。高市はいずれプーチンと親しくなる。自民党内のリベラル派は外されていく。韓国はまだ英傀儡の残滓があるが、時間の問題だ。
The road to Trump's heart goes through Israel

中南米も、反イスラエルな左翼政権が減り、親イスラエルな右翼政権がどんどん増えている。中南米を率いるのは、親イスラエルで米州主義のトランプとその後継者(多分JDバンス)の米国になる。米国は民主党政権に戻らない。民主党は極左化で自滅している(リクード系の米諜報界が民主党を自滅に誘導)。
英国系潰し策としてのガザ虐殺

イスラエルは米覇権を乗っ取ったが、前覇権勢力だった英国系のような単独覇権体制を維持しない。世界の多極化を容認する。米国は米州主義で良い。ただし、多極化した世界においてイスラエル敵視勢力が大きな力を持つことを許さない。
イスラエルは、親イスラエル諸国だけで構成される多極型世界を推進している。英国系のリベラル派政権はすべて転覆していく。中国は、共産党政権を潰したら無秩序な失敗国家になるので、中国市場を重視する大資本家たち(隠れ多極派)に配慮してそれはやらず(今のところ)共産党政権のまま恫喝して親イスラエルの姿勢をとらせている。
イスラエルは、自国を敵視する国を見つけやすいようにするために、ガザで意図的に大虐殺をやって自国に対する人類の敵視を扇動した可能性もある。
世界を敵に回すイスラエルの策

かつての英国系覇権は、アングロサクソンの世界支配に、隠然支配(つまり覇権)の技能が歴史的に高いユダヤ人が協力する体制だった(英王家+ロスチャイルド)。
今後のイスラエル覇権はユダヤ人(米諜報界とイスラエルのリクード系)が直接に世界各国の政治に隠然介入するので、英国系よりも覇権運営能力が高い。だからイスラエルは、アングロサクソンのように明示的な単独覇権体制を必要としない。隠れ多極派が望む多極型世界で良い。

昨年来、世界各国の政権が、次々と親イスラエルに転向、もしくは反イスラエル色を薄めている。それは、ユダヤ人の覇権諜報技能や恫喝力の高さを示している。
イスラエル覇権の形成が一段落したら、米国覇権(諜報力、軍事力、金融力)が必要なくなり、金融バブル崩壊などによって消滅するのか。米国はすごいバブルなので、それはありうる。
米国より先に、まず英仏の国債が金利高騰によって間もなく崩壊する。米国債は裏QEでしばらく延命できる。
◆世界国債危機はトランプの政治戦略
UK bond yields hit fresh 19-year high, adding to pressure on Healey

今に続くイスラエルの覇権拡大が始まった契機が25年前の911テロ事件だ。今回は、911テロ事件がイスラエル覇権拡大の始まり(巨大テロの衝撃を使って米諜報界の乗っ取りを開始)であり、今のサウジ潰し(9月11日の東西パイプライン破壊やペリム島占領)がイスラエル覇権拡大の結実の一つだ、2つの911は25年の歳月を隔ててつながっている、という記事を書こうとした。
しかし、すでに文章が長大になっている。この後、911前のアルカイダとイスラエル(米諜報界)のつながりから書き続けると、長くなりすぎる。改めて書くことにする。いつも長大で尻切れで申し訳ない。



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