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アメリカのテロ事件を読む

2001年9月12日   田中 宇

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 アメリカ時間の9月11日朝、ニューヨークの国際貿易センタービルと、ワシントンの国防総省に飛行機が突っ込んだ連続テロ事件は、背景などがまだ一切分かっていないが、パレスチナ情勢との関連が強いことはほぼ間違いない。イスラエルで頻発しているパレスチナ人による自爆テロがアメリカに輸出されたとみることができる。

(ただし、1995年にオクラホマ市で起きた大規模な爆破テロ事件では、当初アメリカ当局者はイスラム原理主義組織の犯行だと発表していたが、容疑者が逮捕されてみるとイスラム教とは関係ないアメリカ人過激派の犯行であることが分かっており、現時点でイスラム過激派の犯行であると断定することは危険だ)

 中東アブダビのテレビ局が、パレスチナ人を代表する政治組織であるPLO(パレスチナ解放機構)の非主流派であるDFLPから犯行声明の電話を受けたと報じたが、当のDFLPは犯行を否定している。しかし、イスラエルが全世界から軍関係者と外交官を退去させることを決めたと報じられている。

 事件の経緯は全く分かっていないが、テロリストは、ボストンなどの飛行場を飛び立った旅客機を次々とハイジャックした後、パイロットを殺してテロリスト自らが操縦桿を握り、高層ビルと国防省にぶち当てたといった可能性がある。

 4機の飛行機がハイジャックされたが、最低で4人でこの手の事件を起こせてしまう。驚くべきことは、わずか4人で、このような大きな事件を起こせてしまうということだ。アメリカは飛行機の搭乗時のセキュリティチェックが厳しいが、それでもこんな事件が起きてしまうということだ。

 今回の事件がパレスチナ人よって引き起こされたとしたら、アメリカがイスラエルを支援している限り、アメリカ人も同罪だ、というアラブ・パレスチナ側のメッセージが感じられる。パレスチナのガザやレバノンのパレスチナ難民キャンプでは、今回のテロをお祝いする騒ぎが起きている。

 マスコミでは、アフガニスタンに潜伏しているオサマ・ビンラディン氏が今回の事件に関与したのではないかと報じられている。ビンラディン氏は反米的なイスラム原理主義のテロ活動を指揮し、1998年にケニヤとタンザニアでアメリカ大使館が爆破されたテロ事件に関与していた可能性がある。今回のテロ事件は、ニューヨークとワシントンという2か所でほぼ同時に発生したが、これは1998年のテロ事件と同様に同時多発であるため、ビンラディン氏と事件とのつながりが語られている。

 今回の事件は、アメリカとイスラエルに大きな影響を与えることになると予測される。テロ攻撃として史上最大の被害になることは間違いないが、事件そのものの悲惨さ以外の面をみるなら、これだけの痛手を受けたアメリカ政府が今後中東問題にどう対応するかが注目される。

 表向きは「テロは絶対許さない、屈しない」という立場をとることは間違いないが、一方ではイスラエルによって日々抑圧されているパレスチナ人の人権問題もある。アメリカは、あくまでもイスラエルを支持していくのか、イスラエル支持を微妙に抑えていくのか。

 この事件より前、9月7日には東京のアメリカ大使館が、テロを受ける可能性があるとして在日アメリカ人に対して警戒を呼びかけている。8月31日にはヨーロッパのブルガリアとルーマニアのアメリカ大使館が同様の警告を発している。アメリカだけでなく、全世界が巻き込まれているといえる。

 世界のビジネスの象徴、世界経済の象徴であったニューヨークの世界貿易センタービルのツインタワーは、すでに2本とも崩れてなくなってしまった。おそらく、もう以前のかたちで再建されることはないだろう。そして、世界を支配してきたアメリカの軍事的な中心地ペンタゴンも麻痺させられた。

 アメリカ経済の不調などもあり、今回の事件を機に、世界の歴史が、アメリカと中東を中心として、ある種の転換期に入っていく可能性も感じられる。

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