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911事件と空港セキュリティ

2003年9月14日   田中 宇

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 アメリカでは2001年の911事件以来、空港における安全検査(セキュリティチェック)がどんどん厳しくなる方向に動いてきた。それまで民間企業に任せていた全米の空港セキュリティ業務を国営化するため、2001年11月に連邦政府の役所として「運輸保安局」が作られ、乗客の荷物検査が強化された。今年1月から検査がさらに厳しくなり、詳細な検査を行う手荷物の対象が、全手荷物の5%から10%へと引き上げられた。全米に400以上ある空港の多くでチェックインカウンターに長い行列ができ、乗り遅れる人が多くなっている。(関連記事

 ところが、乗客たちが長蛇の列を堪え忍んでいる一方で、空港を出入りする従業員や業者などに対する安全検査が非常に甘いままだと指摘されている。CBSテレビが報じたところによると、たとえばシカゴのオヘア空港では、空港で働く従業員や業者は、スタッフ入口で身分証明書を見せるだけで、荷物検査も受けずに空港内の保安領域に入ることができる。出入り業者の自動車に対しても、荷物検査は行われていないという。

 オヘア空港では昨年末、ニセの身分証明書で空港に出入りしている作業員25人が逮捕されている。彼らは清掃員や手荷物係、機内食の業者などになりすますニセの身分証を使い、ターミナルビルだけでなく滑走路にも入り、駐機している旅客機の内部にも自由に出入りしていたという。逮捕者の中には米国籍ではなく、アメリカに密入国した後、身分を詐称して社会保障番号(米国在住者の身分証明の基礎となるもの)を取得し、それを使って米国民になりすましていた人もいた。(関連記事

 このような事件があった後も、オヘア空港では、従業員や出入り業者のトラックなどに対する検査は依然として行われていない、とCBSテレビは指摘している。CBSテレビは他の例としてテキサス州ダラスの空港を挙げ、滑走路の近くの大規模な工事現場では、毎日1000人近くの作業員が出入りするが、身分証明書の確認や荷物検査はまったく行われていないとしている。また同空港で記者が道に迷ったふりをして空港内に車で入ったところ、滑走路の近くまで入り込めてしまったと指摘している。空港の表玄関から入る乗客たちは長蛇の列に並んで厳しい検査を受けるのに、裏の勝手口は無警戒に開放されているのだった。(関連記事

 アメリカでは911以来、空港の安全問題が盛んに論じられ、専門の役所として運輸保安局や国土安全保障省が作られている。それなのに、空港の安全確保がお粗末な状態にあると指摘する声は後を絶たない。なぜなのだろうか。これについて「乗客に対する検査態勢だけが強化されているのは、米政府が『テロ戦争』を今後も永続させるため、米国民が911事件で味わったテロの恐怖を忘れさせない状態にしておくためではないか」という指摘がある。(関連記事

 911事件から2年が過ぎ、人々はしだいにあの日味わったテロの恐怖を忘れ始めている。米政府は、米本土におけるテロ発生の可能性を5段階の色別の警報で示しており、5月にサウジアラビアの首都リヤドで米軍系の企業の駐在員住宅が爆破テロに遭った後など、機会があるごとに警報をイエロー(危険度3)からオレンジ(危険度4)に上げ、その後実際に米本土ではテロが何も起きなくても、米国民の間に「危険はまだ残っているんだ」という意識を残る状態を生み出している。こうした「テロを忘れさせないための措置」の一つとして、アメリカの空港で「頭隠して尻隠さず」的なセキュリティ強化が行われている可能性がある。

▼ハイジャック犯の武器を言いたがらない米当局

 アメリカの空港で従業員や出入り業者に対する検査が甘すぎることは、単に管理がずさんだという問題を越え、もっと大きな疑惑につながっている。

 911事件の容疑者の1人に、ドイツで裁判にかけられているムニール・エルモサデク(Mounir el Motassadeq)というモロッコ人がいるが、彼の裁判の中で、FBIのエージェント(Matthew Walsh)が証言し、911当日、実行犯はハイジャックする機内(AA11便)の搭乗員らの抵抗を封じるため、機内に催涙ガスのような化学物質を持ち込んでいた可能性が大きいことを明らかにした。(関連記事

 ハイジャックされた機内のスチュワーデスと地上との交信記録には、犯人が黄色い導火線のついた爆弾を持っている、という証言がある。また、この交信記録をもとに米連邦航空局(FAA)が公表した資料の中には、ハイジャック犯が拳銃を持ち、乗客の1人を銃殺したという記録がある。(FAAは後に、この記録について「正式なものではなく、間違いだった」と発表している)(関連記事

(銃殺された乗客は、ダニエル・ルイン〈Daniel Lewin〉というイスラエル系アメリカ人で、イスラエルの新聞「ハアレツ」などは、ルインがイスラエルのテロ対策秘密部隊「サエレト・マトカル」の要員だったと報じている)(関連記事

 ハイジャック犯たちが缶入り催涙ガスや拳銃、爆弾などを機内に持ち込んでいたという指摘があちこちから出ているが、米当局は公式には一貫して「犯人が使った凶器はカッターナイフとプラスチックのナイフだけだ」と言い続けている。この件に関し、米当局はウソをついており、その理由は「犯人が爆弾や拳銃を持っていたとなると、空港での検査が甘かったという非難が起こり、事件の犠牲者の遺族が、空港管理責任者や当局を訴えるので、それを避けるためではないか」と推測する分析もある。911当日には、カッターナイフはまだ機内に持ち込めることが許されていたから、当局に落ち度はなかったということになるが、拳銃や爆弾だと話が違ってくる。(関連記事

 ハイジャック犯が拳銃や爆弾を機内に持ち込んでいた可能性があるということと、空港に出入りする職員や業者の検査が甘いということを合わせて考えると、犯人たちは乗客としてではなく、業者になりすまして空港に入り、機内に入り込んだ可能性もある。事件後、ハイジャックされた4機の搭乗者名簿を航空会社が発表したしたが、その中に犯人とされた19人の名前は一つも載っていなかった。このことも、もし犯人が裏口から空港に入り込んだとすると辻褄が合う。

▼麻薬戦争と911のつながり

 もう一つ、過去の事件とのつながりでいうと、911事件といくつかの点でつながりがある1995年の「オクラホマ連邦ビル爆破事件」の容疑者の1人が、その後、ボストンのローガン空港で働いていたという指摘がある。ローガン空港は、911でハイジャックされた2機が飛び立った飛行場である。(関連記事

 オクラホマ事件は、極右の白人青年ティモシー・マクベイが犯人であるとされて死刑になったが、この事件について詳しく調べた弁護士や記者によると、マクベイは下っ端で、犯人組織の中心にはアラブ系の男たちがおり、彼らは逮捕もされず、そのまま米国内で自由に行動している。そして、男たちの行動範囲の中に、ボストンやシカゴの空港が含まれていたという。彼らがボストンの空港で働いていたということは、米国務省のテロ対策担当官(Larry Johnson)も、テレビ出演中の公式発言の中で認めている。(この担当官は、アラブ系の男たちがイラクのスパイであるとして、911とイラクとの関係を強調するため、テレビで発言したのだと思われる)(関連記事

 アメリカの空港には、かなり以前から、麻薬を旅客機に乗せて運んで金を稼ぐ犯罪組織(日本のやくざのような組織)が巣くっていると指摘されてきた。空港作業員になりすますニセのIDカードを作るのは、そのような組織であると思われる。(関連記事

 問題は、このような米国内の麻薬取引組織に対し、DEA(連邦麻薬取締局)など米政府の麻薬捜査当局が見て見ぬふりをしてきた部分が大きいということである。DEAやCIAは冷戦時代を通じ、麻薬を取り締まる「麻薬戦争」を遂行するふりをして、実は中南米の右派政権に資金援助するために、中南米産の麻薬が米国内に流れ込むことをわざと見過ごし、ときには麻薬の流入を奨励してきた。(暴力団を生かさず殺さずにしてきた日本の警察を思わせる)(関連記事

 麻薬組織と911とのつながりは、モハマド・アッタなど実行犯の何人かが飛行訓練を受けたフロリダ州の「ホフマン航空学校」(Huffman Aviation 今年初め突然閉校)が、麻薬の密輸で検挙されたこともある「CIA公認の麻薬密輸会社」などと地元紙で報じられている地元の小さな航空会社(Caribe Air)を傘下に持っていたことにも表れている。(関連記事

 ハイジャック犯が職員用入り口から空港に入り込み、機内に武器を持ち込んだのに、捜査当局がまったくそのことを発表せず、むしろ「凶器はカッターナイフ」と言い続けることで裏口から空港に入った可能性を否定しようとしたことは、アメリカの政府当局が911事件の犯行にかかわったという「自作自演」説につながる。そして、空港の職員用入り口は、911事件のずっと前から、当局に見て見ぬふりをしてもらえる麻薬組織にとって、出入り自由だった。

 とはいえ、アメリカの捜査当局や連邦航空局の一般の職員たちが、911の自作自演に荷担したとは思えない。米当局の中で911に荷担した勢力がいたとすれば、それは一般の職員も知らない、たとえば国防総省内部にある秘密部隊などが行った可能性が大きく、そうした組織は、米政府が麻薬が絡んだ中南米との低強度戦争を展開していた1980年代から存在していた。アメリカの暗部ともいえるこの手の政府系地下組織をつぶさない限り、アメリカは彼らに振り回され続けることになる。(関連記事



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