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近づいてきたドル崩壊

2006年12月26日   田中 宇

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 12月19日、東南アジアの国タイの平均株価が、史上最大幅の15%という暴落をした。各国の株価は1日に3%も下がったら、かなりの下落という感じなので、15%は崩壊感の大きい暴落である。

 タイの金融市場は、東南アジアで最も規制の少ない自由な市場の一つで、それを好感して、タイの株式や債券の市場には外国からの投資が多い。12月19日、タイの中央銀行が、外国からバーツ建ての預金や投資に対する規制を強化すると発表したため、それを嫌気した外国人投資家がいっせいに株を売り、株価が暴落した。

 タイでは約10年前の1997年、外国人投資家がいっせいに株や債券などを売って通貨バーツが急落している。この急落は、他の東南アジア諸国や韓国、ロシアなどに飛び火して「アジア通貨危機」に発展し、インドネシアのスハルト政権が崩壊し、IMF(通貨の国際機関)が各国に「借金取り」的な厳しい政策を押しつけ、冷戦終結以来の数年間の世界的な「新興市場ブーム」は一気に終わった。

 その後10年、タイやその他の新興市場は、着実に復活してきているが、今回のタイの株暴落を機に、再び金融危機が他のアジア諸国に感染して大変なことになるのではないかという懸念が世界に広がった。

 しかし、暴落が起きるまでの経緯やタイの経済状況をみると、実は構図は10年前とは正反対になっている。タイ政府は、10年前は自国からの資金流出をおそれて対策を打って失敗したが、今回は自国への資金流入が多すぎるので止めようとしたところ暴落に見舞われた。

▼暴落は規制を撤回させるための投資家の作戦?

 世界からタイに投資する人々は、ドルや円をバーツに替え、株や債券、不動産などを買っており、バーツが下がると為替で損をしてしまうので、投資家はバーツの対ドル為替が下がりそうだと思うとタイでの投資を清算し、資金流出を引き起こす。

 このメカニズムは10年前も今も変わっていないが、タイの側の状況は大きく変わった。10年前にはタイの政府も民間も借金が多く、外国人にいっせいに清算されてしまうとカネを返せず、金融危機に陥った。しかしその後の10年間でタイの政府も民間もせっせと貯蓄し、政府は外貨準備が潤沢になり、民間を含めたタイ全体の収支(経常収支)は赤字から大幅黒字に転換し、今年11月には6年ぶりの大きな黒字を記録した。(関連記事

 タイは経済成長が続き、金融規制が少なく、金利も高いので、世界からの投資は、ここ数年再び増え続けている。以前は外国人が投資を引き上げると破綻してしまったが、今では国内の資金が大きいので、別に外国人が投資してこなくてもかまわない状態だ。むしろ、世界からの資金流入でバーツへの需要が増えて為替がバーツ高になり、タイの金融当局を困らせている。今年に入ってバーツはドルに対して2割近く値上がりし、東南アジア諸国の通貨の中で最大の上昇をしている。

 タイ経済の65%は輸出関連産業なので、バーツ高になると、ドルやユーロで換算した場合の輸出価格が上がり、世界市場において、他のアジア諸国の製品に対する競争力が落ちて売れ残り、企業業績が悪化して、経済成長が鈍化し、株価も下がってしまう。アジアの諸通貨の中では中国の人民元など、対ドル相場が固定(ペッグ)されているものがいくつもある。バーツ高は、タイの一人負けになりかねない。

 タイ当局は、バーツの上昇を止めようと、世界からの流入する資金のうち1年未満で引き上げるつもりの短期投資を抑制しようと11月から2回にわたって規制を行ったが効果がなかった。そのためタイ中央銀行は12月19日、今後タイ国内に新たに預金される外国からの資金について、1年以内に引き上げる資金に11%の罰金を課したり、預金の上限額を定めたりする強い規制を発表した。

 これが株価暴落につながったのだが、暴落を受けてタイ当局が規制の一部を緩和したこともあり、翌日には株価は反発して大幅上昇した。タイ経済は基礎的な状況が良いので、株の暴落を「買い時」と判断した外国人投資家が殺到し、株価は1日で元に戻る方向に動きだした。10年前と異なり、外国人の資金流出は全体の1%台にとどまった。(関連記事

 どうやら株価の暴落は、タイ当局に規制強化をあきらめさせるために一部の大口の外国人投資家が結託して行った作戦だったようだ。暴落から3日後、タイ当局は暴落を受けて緩和した規制の一部を復活すると発表したが、もはや株式市場には悪影響をもたらさなかった。

 タイだけでなく、インドネシア、韓国、ロシア、中南米諸国など、1997年のアジア発の世界通貨危機で通貨が急落した国々の多くは、10年後の今、持続的成長と収支の黒字化によって経済基盤の強い国になっている。タイ株の1日暴落の話の背景には、これらの新興市場(発展途上国経済)全体の、ここ数年の好調さがある。

▼アメリカからの資金流出の意味

 ここまでは、新興市場が好調だという話であるが、この話の裏側には、もう一つの潜在的な巨大な不調の話が存在する。当局が規制しなければならないほどの強い圧力で、タイの金融市場に流入している資金の多くは、アメリカから流れ込んできている。アメリカ経済に対する投資家の懸念が、流出となって表れている。(関連記事

 アメリカからの資金流入は、タイだけでなく、中国やインド、ドバイなどの中東産油国、中南米など、新興市場の広い地域に及んでいる。最近、ユーロや英ポンドなどの通貨の対ドル相場が上がっているが、これはアメリカからヨーロッパに投資先を変える人が多いことを示している。アメリカの金融市場から資金が流出し、他の投資先を求めて世界中を探し回り、タイのように条件の良い市場を見つけて流れ込む現象が起きている。

 世界の投資家にとって、今年前半ぐらいまで、アメリカの株や債券は、世界で最も信頼できる投資先だった。ドルは世界の基軸通貨であり、アメリカに投資している限り「通貨危機」とは無縁だった。アメリカの消費は旺盛で、経済成長は先進国の中で最も順調だった。10年前のアジア通貨危機の前の数年間(1990年代半ば)にも、アメリカから世界の新興市場への資金流出があったが、これは投資を多くの市場に分散するという投資効率の向上であり、良いことと考えられていた。

 だが今回は、状況がかなり悪化しそうだ。最近になって、投資先としてのアメリカの信頼を揺るがす現象がいくつも顕在化している。そのひとつは赤字の増加である。政府の赤字である財政赤字と、国全体としての赤字である経常赤字の両方が拡大し、今やアメリカは一国で、世界全体の貯蓄の3分の2を借金している。世界的なバランスから見て、アメリカの赤字は上限に近づいている。(関連記事

 アメリカの株価は2000年の通信関連(IT)株のバブル崩壊以来、ほぼ横ばいで、その後の6年間のアメリカ経済は、各地の大都市の住宅価格が上昇し、その値上がり益で人々が消費するという住宅バブルの構造を持っていた。だが、住宅価格は今年、下落に転じ、来年はもっと下がることがしだいに確実になっている。(関連記事

 私は今年1月、この件を「アメリカ発の世界不況が起きる」という記事に書いた。当時は多くの読者から「あり得ない話」とあしらわれたが、その後1年を経て、状況は、記事の内容に近づいている。(関連記事

(イラクの泥沼化、911事件の奇妙さ、中国の台頭、世界の多極化など、私は指摘を早く発しすぎるので、信じてもらえないことが多い。自分を世の中に売り込みたい評論家は、多くの読者の頭が追いつける範囲内の、半歩先のことしか言わない。2歩も3歩も先のことを言っても、誰も信じてはくれないのだが、私は自分が書きたいことを書く方がすっきりするので、道楽的、隠者的に、読者や世の中に合わせずにやっている)(関連記事

▼急増しそうな財政赤字

 ブッシュ政権は最近、イラクへの兵力増強を決めた。ペルシャ湾に2隻目の空母を入れてイランをも威嚇しており、イラクの戦争が激化するばかりでなく、来春にはイランにも戦争が波及しそうだ。アメリカは、臨時防衛予算として史上最高額の1000億ドルを計上することを決めた。この5年間、臨時予算はイラクとアフガニスタンの経費の増加分の補填に限定されていたが、今回はタガが外れ、新兵器の開発費の増額など、軍事産業がこれまで我慢していた予算が一気に計上された。イラク戦費の名目で大盤振る舞いが助長されている。これでは財政赤字は減りそうもない。(関連記事

「財政を大赤字にした方が、あとで税収が増えて大黒字になる」という「レーガノミクス」の理論を信じるブッシュ政権は予算を浪費したがる傾向があるが、11月の中間選挙で議会が民主党主導になるので、今後は浪費が抑えられると一時は期待された。だがその後、民主党もお手盛り予算の大盤振る舞いは大好きなので変えないと報じられている。この点でも財政赤字は減りそうもない。(関連記事

 アメリカでは、老人向けなどに政府が運営する国民健康保険「メディケア」の保険適用が、今年から処方薬(医師の診断にもとづいて出す薬)にも拡大された。その影響で、政府によるメディケアへの赤字補填の支出は急増し、それでもメディケアの赤字拡大は止まらないため、今後10年程度で破綻すると会計検査院(GAO)などが予測している。(関連記事

 メディケアの赤字は、最終的には米国民の税金でまかなわれねばならないが、米政府発表の財政赤字(昨年度は2500億ドル)には、その赤字の一部しか計上されていない。赤字を全部計上すると、財政赤字は2倍近い4500億ドルになるのに、米政府は会計制度を悪用して赤字を隠しているとAP通信が報じている。(関連記事

▼貧富格差の拡大で消費力が落ちるアメリカ

 一度拡大した健康保険の適用範囲を再縮小すれば危機を回避できるが、それは政治家にとって中高年の有権者を激怒させる自殺行為なので、実現の可能性は低い。メディケアの赤字が今後さらに増えることはほぼ確実だ。将来発生することが確実な赤字を全部加算すると、昨年度のアメリカの財政は、政府発表の20倍の4兆6000億ドルの赤字になる。この赤字額は前年度より1兆1000億ドル多かったと指摘されている。(関連記事

 この指摘によると、これまでの財政赤字の合計残高は55兆ドルになっており、これは以前の記事「アメリカは破産する?」で紹介した、連邦準備銀行の研究者が算出した赤字額(66兆ドル)に近い。あの記事を書いたとき「アメリカが破産するはずがない」という反応を読者からいただいたが、その後、やはりアメリカは破産しそうだという感じが強くなっている。世界は、平均的な日本人の想像力をはるかに越える事態になっている。

 私と同様の危機感をアメリカの機関投資家も抱いており、だからアメリカからタイへの資金流入圧力が強まり、タイ当局が流入規制をしなければならなくなったと考えられる。

 もう一つアメリカにとって悪いことは、大金持ちに対する減税と、企業が出す賃金が伸び悩んで中産階級が消滅しつつある結果、貧富の格差が急速に拡大し、アメリカは1%の大金持ちと残りの貧乏人という二極分化が進んでいることである。アメリカでは今、人口の2割にあたる6千万人が、1日7ドル以下という満足に食べることができない低所得で生活している。(関連記事

 大金持ちは旺盛に消費するが人数がとても少ない。貧乏人は消費できない。適度に消費してくれる中産階級が消滅すると、アメリカは今後経済が良くなっても国全体としての消費総額が増えにくく、世界経済を牽引できる市場ではなくなる。(関連記事

▼株価を上げるための粉飾容認

 こんな状況なのに、アメリカ経済の先行指標の一つと考えられているダウ平均株価は下落せず、横ばいに近いものの少しずつ上昇し、最高値を更新している。こうなるのは、ブッシュ政権が企業に対する会計基準などの決まりを緩和し、企業が利益を出しやすくしているため、企業業績が好調だからである。

 たとえばウォールストリート・ジャーナルによると、アメリカの税務署(IRS)はここ数年、大企業に対する税務調査にかける時間を減らす傾向にある。税務署は、これを「効率化の成果だ」と言っているが、会計の専門家はそう見ず、実は税金として集めるべきカネが徴集されず、その分が企業の利益になって企業業績の好調さにつながっているのではないか、と考えている。(関連記事

 最有力の投資銀行ゴールドマンサックスの会長からブッシュ政権に招き入れられたポールソン財務長官は、就任以来、米企業が経営効率を上げて国際競争力をつけて株価を上げられるよう、いろいろな行政指導を行う方針を採っている。この「行政指導」の一つが、税務署から企業に対する調査を以前より甘くさせて、企業に利益を出させ、株価を上げることなのではないかと考えられる。(関連記事

 アメリカでは2002年前後にエンロン事件やワールドコム倒産など、企業会計の粉飾が明らかになる事件が相次いだ後、企業会計に対する監査の義務を強化する法律の改定などが実施されたが、ポールソン財務長官は「会計監査が厳しすぎるので、米企業が国際競争に勝てなくなっている」と主張し、強い監査義務を盛り込んだ法律(2002 Sarbanes-Oxley law)を緩和することを検討している。この法律改定が実現すると、当局は粉飾決算を今より大目に見るようになり、企業は業績を良く見せることを以前より大胆にやれるので、株価のテコ入れ策として機能する。(関連記事

 これらの策が功を奏して、アメリカの平均株価は上昇しており、今後も上昇するかもしれないが、株が上がるのは米経済が良くなっているからではなく、納税回避策や粉飾決算を大目に見ることによって見かけの企業業績を良くして、株価を「延命」させているにすぎない。今から2年後、ちょうどブッシュ政権が終わるころに、この延命策の効果が尽きるように、戦略が設計されているのかもしれない。

▼アメリカの消費力を肩代わりする新興市場

 これらの現象を総合すると、今後のアメリカ経済は、2007年から08年にかけて住宅バブルの崩壊で不況になり、税収が減る一方でメディケアや防衛費などの政府支出は増え、今後の数年間で財政赤字が急拡大する(潜在している赤字が顕在化する)。その間にアメリカの中産階級は消滅し、国全体としての消費力が減り、今後10年ぐらいかけて財政が再建されても、そのころには、旺盛に消費できる世界経済の牽引役という従来のアメリカの姿は、二度と再現できない過去の話になっている。この過程のどこかの時点で、ドルは世界通貨としての役割を終える。

 今までアメリカに輸出することで国を発展させてきた日本、中国、タイなどの国々は、今後数年間に、アメリカへの輸出が激減する事態に直面する。

 アジア諸国にとって幸運なことは、10年前にはアジアが作った工業製品の輸出先はアメリカを中心とする欧米日本にほとんど限定されていたのが、その後の10年間に世界の新興市場国の経済が貧困から中産階級のいる消費可能な状態へと発展し、欧米日以外の輸出先が拡大していることだ。(関連記事

 今後、アメリカの消費力が減退する代わりに、中国、インド、中近東、旧ソ連東欧諸国、中南米などが消費力を拡大させていきそうだ。日本製品はすでに世界中で売れているが、その後を追ってここ数年、中国製の日用品や家電、韓国製の自動車などが、世界を席巻し始めている。来年以降、アメリカの不景気の影響で、日本を含むアジア諸国が不況に陥る懸念はあるが、それは長くは続かず、アメリカ以外への輸出によって代替されていくと予測される。(関連記事

▼アジア通貨統合の再燃

 ここで残る問題は、アジア諸国の輸出の決済通貨がドルであることだ。欧州はすでにユーロを持っており、アメリカの市場とドルが衰退してもあまり影響を受けない。だが、アジア諸国は自国の通貨をドルにリンクさせており、ドルが下落すると、自国通貨をドルの下落に合わせて下落させようとして、自国通貨を売ってドルを買う取引をふくらませ、中国も日本も巨額のドル(米国債)を持つに至っている。ドルが減価し、アメリカの財政が破綻して米国債が実質的な債務不履行になったら、日本も中国も巨額の損害を被る。

 アジア諸国は輸出品の価格競争をしているので、中国が人民元の価値をドルに固定(ペッグ)している限り、日本の円も115円前後の水準から動かないようにこっそり市場介入せざるを得ず、台湾元やその他のアジア通貨も対ドル相場が動かないように水面下で必死に操作している。タイ当局は、資金の流入規制で株価暴落の騒動が起きた後「中国が人民元の安すぎる対ドル相場を引き上げてくれたら、こんなことにはならなかった」と表明した。(関連記事

 人民元の切り上げは一時的な解決にはなるが、根本的な解決ではない。今後は、もはやアメリカは有望な輸出先ではなくなるのだから、日本も中国もドル決済にこだわる必要はなくなる。紙くずになりそうな米国債を持つ必要もない。アジア諸国は、ドルの代わりにユーロのようなアジアの共通通貨へと移行した方が良い。

 アジア共通通貨の構想は「アジア通貨バスケット」として2002年にASEAN+日中韓で打ち立てられたが、各国とも主な輸出先がアメリカであることからドル離れに消極的で、加えてアジアの2大盟主である日本と中国の関係が悪化したため、その後ほとんど進展していない。(関連記事

 しかし、もはやアメリカ中心の世界経済体制が崩れて始めていることは、今回のタイの1日株暴落が象徴しているとおりである。すでにIMFは今年春、世界の基軸通貨の体制をドルの単独覇権から、ドル、ユーロ、アジア通貨、中近東産油国の共通通貨などへの多極化された体制へと移行していくことが必要であると表明し、その後のアジア開発銀行の総会で、アジア諸国もその必要性を認めている。(関連記事その1その2

▼日中合作が不可避に

 来年以降、アジア諸国は、これまで口約束だけだった自分たちの通貨統合を進めざるを得なくなる事態に直面する。そこで不可欠なことは2点ある。一つは中国政府が、人民元の対ドル固定相場制(ペグ)をやめる決心をすること。もう一つは、日本政府がこれまでの中国敵視策をやめて、右傾化した国内世論と、アメリカの右派の批判を無視して、日中の政府間に通貨政策で協調できる信頼関係を作ることである。アジアの2大盟主である日本と中国の合作体制が中心にならない限り、アジア共通通貨は実現に近づかない。

 IMFはアメリカの傀儡組織である。IMFがアジア共通通貨を推進しているということは、アメリカがそれをやりたがっているということである(アメリカの機関投資家は、ドルの覇権維持より、基軸通貨の多極化による世界経済の持続的発展の方を優先していることになる)。(関連記事

 安倍首相は、就任直後の今年10月に中国を訪問し、日中関係の悪化に歯止めをかけたが、以前の記事に書いたように、訪中はアメリカがアジア共通通貨の実現に不可欠な日中関係の改善を狙って、安倍に圧力をかけた結果の出来事だったのではないかと思われる。

 最近、米英のマスコミに「安倍は国内の右派世論を振り切って、中国との関係改善など、アジアの協調体制に協力した方が良い」といった論調の記事が出るようになった。「中国は、東芝の子会社となったウェスティングハウスに原子力発電所を受注させたりして、日本を取り込もうと動いている」とも指摘されている。(関連記事

 ニューヨークタイムスは最近「日本の右翼は、国民を騙し、マスコミを脅し、安倍首相にとりついて、北朝鮮の拉致問題を扇動している」という記事を出した。日本の右派を激怒させたこの記事には、アメリカ側の政治的な意図が感じられる。アメリカから日本への「そろそろ右傾化の扇動政策を終わりにして、中国と一緒に『アメリカ以後』のアジア作りに協力しなさい」という示唆が、今後さらに強まるかもしれない。(関連記事

 安倍首相は、ここ数年の日本国内での反アジア意識の扇動策を自らの権力強化の道具に使い、首相に登りつめたが、アメリカ衰退の顕在化という新たな事態に直面し、中国と話し合ってアメリカなしのアジアを模索しなければならない今になって、自分が煽った国民の反アジア意識が邪魔になり、中国に接近することが難しくなっている。国際情勢を優先し、国内の右派世論を無視して急いで中国に接近しすぎると、安倍政権は短命で終わりかねない。対米従属の「戦後」がもうすぐ終わるのは確かだが、その次の段階に、日本がスムーズに移行できるかどうかは、まだ定かではない。



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