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「田中宇の国際ニュース解説」2012年の記事一覧


これより後の記事(2013年の記事)

まだ続き危険が増す日本の対米従属
 【2012年12月26日】 米連銀は、リーマンショックで痛んだままの米金融界を救済するために量的緩和を拡大している。日本の金融界は、米金融界のように痛んでいないので、日本国内的には量的緩和が必要ない。それなのに安倍政権が「景気対策」という間違った口実で量的緩和を急拡大しようとするのは、対米従属以外の何物でもない。対米従属策の一環としての中国との対立激化も経済面で日本を危うくするが、量的緩和の加速の方がもっと危険だ。

一線を越えて危うくなる日本
 【2012年12月20日】 安倍晋三は独裁者でない。尖閣での日中戦争、日米同盟解消につながる改憲、ドルより先に円を破滅させる緩和策、いずれも安倍は、選挙前から公約に掲げて民主的に選挙に勝ち、民意を背景に実行しようとしている。従来の日本がやりたがらなかった一線を越えて自国を自滅に向かわせているのは、政治家でなく、選挙に行かなかった反右派の人々を含む国民だ。

きたるべき「新世界秩序」と日本
 【2012年12月16日】 ローマ教皇が提唱する多極型の新世界秩序は、現実になりつつある。多極化への転換の前に、米国発の金融大崩壊が再来するだろう。時期は不明だが、いずれ起きることがほぼ確実だ。米国の覇権が大幅に減少し、中国の影響力が大きくなる。世界経済は、中国の内需が牽引役になる。対米従属・対中敵視を貫いている日本は、国際的にお門違いな存在になる。損を承知でわが道を行くのなら良いが、今の日本は、世界の多極化、中国の台頭、米国の覇権崩壊が不可逆だと気づいていない。いずれ中国の台頭を容認する「8月15日」的な間抜けな転換をするだろう。

北朝鮮の衛星発射と中国の尖閣領空侵犯
 【2012年12月14日】 中国は、初めて当局の飛行機で尖閣を領空侵犯することで、日本側に「安倍新政権が尖閣で一線を超えるなら、中国も一線を越えて尖閣を軍事的に奪取する姿勢をとる」との信号を送った。安倍は新政権を樹立後、尖閣をめぐる公約を果たそうとするだろうから、中国側も当局の飛行機を頻繁に領空侵犯させるだろう。領空侵犯は常態化する。

シリアに化学兵器の濡れ衣をかけて侵攻する?
 【2012年12月11日】 シリア政府が化学兵器を使う準備をしているという指摘は根拠が薄い。シリア政府は化学兵器を持っており、最近それを移動したことも確認されたが、移動の理由は化学兵器が反政府派に奪われぬよう保管場所を変えただけで、兵器の使用を準備しているとは考えにくい。トルコの新聞は、アルカイダがトルコで化学兵器を作り、シリアに持ち込んで使おうとしていると報じている。シリア反政府勢力の中には、アルカイダが多く入り込んでいる。

トリウム原発の政治的意味
 【2012年12月7日】 米国は軍産複合体の影響が強いので、ウラン炉からトリウム炉への脱却は難しい。日本も、国是の対米従属が本質的に軍産複合体への従属であるため、同じ状況だ。対照的に、今後長期的に世界のエネルギー需要の中心になっていく中国は、むしろ米軍産複合体に敵視されている上、国際政治上の影響力が急拡大しており、トリウム炉など新型炉を開発して世界に普及させる主導役になりうる。

円をドルと無理心中させる
 【2012年12月3日】 現在の野田政権と、次の政権と目される安倍晋三らは、米国がドルと米国債を過剰発行するのに合わせて、円と日本国債を過剰発行する政策を持ち、日銀に対し、円を増刷して日本国債を買い支えろと圧力をかけている。この政策には、日本の対米従属を維持する「利点」がある半面、日本を財政破綻や超インフレに導き、日本の金融機関を破綻させ、日本人の生活や預金を破壊する。「デフレ対策」は名前だけで、円をドルと無理心中させようとする政策だ。

日中韓協調策に乗れない日本
 【2012年11月28日】ドイツは、自国にかけられた「戦争犯罪」の濡れ衣・えん罪を、積極的に全部認めてしまった。だが、それを批判するのはお門違いだ。個人にかけられたえん罪を晴らす正攻法を、国家にかけられたえん罪にも適用するのが良いと考える常識的な思考こそ、戦勝国が敗戦国を陥れる策略に引っかかっている。戦勝国の英米は、戦後の国際言論界を操作できるので、日本人やドイツ人が濡れ衣を晴らそうといくら力説しても「自分たちの罪を認めたくない日独の戦犯の残党が、まだウソを言い募っている」としか世界に思われない。

アジアFTAの時代へ
 【2012年11月26日】 ASEAN+3や+6、日中韓など多様な組み合わせからなるの東アジアFTAは、中国の台頭を広域的な経済利得に換金する新しい覇権の仕組みとなる。対照的に、米国主導のTPPは、アジア太平洋の対米従属の諸国で米国企業が利益を出せる構図を確保するもので、米国が失いつつある覇権を今のうちに自国の経済利得として換金しておこうとする、古い覇権の最後の活用である。

世界の運命を握る「影の銀行システム」
 【2012年11月22日】 米英主導の先進諸国は製造業が不振でも経済成長してきたが、それは影のシステムが生む金融の儲けがあったからだ。影のシステムの縮小を容認すると、世界経済も縮小・崩壊する。だから世界経済の成長維持のためには、影のシステムを膨張させると再びリーマン危機のような金融バブル崩壊が起きるとわかっていても、システムを膨張させないわけにいかない。影のシステムがどうなるかが、人類の未来を握っている。人類は、ほとんどの人が気づかぬうちに「影の銀行システム中毒」にかかり、症状がしだいに重くなっている。

オバマ再選を受けたイスラエルのガザ侵攻
 【2012年11月19日】 中東で米国の影響力が弱まるほど、イスラエル政界で右派が弱まり、パレスチナ和平を好む中道派が再台頭する。右派政権であるネタニヤフ首相は、そうなる前に連立政権を再強化しようと考え、10月初旬に議会を解散し、来年1月22日に総選挙が行われる。当初はネタニヤフの圧勝が予測されたが、米大統領選挙でネタニヤフが嫌ったオバマが再選されて事態が流動的になった。不利な状態を再逆転するためにネタニヤフが起こした行動が、11月14日からのガザ侵攻だった。

江沢民最後の介入
 【2012年11月16日】 江沢民は、欧米型の市場経済を大胆に導入しようとしたトウ小平の経済路線を踏襲し、民間企業が自由に儲けて成長して国有企業をしのぐことを容認し、中国をWTOに加盟させて世界経済と密接な関係を持たせることを推進した。しかし02年からの胡錦涛は慎重な姿勢をとった。リーマンショックなどで米国の市場経済万能神話が崩れたこともあり、胡錦涛は民間企業を繁盛させるために国有企業を抑制することを嫌がり、逆に国有企業を国際化して繁栄させることを重視した・・・

ユダヤロビーの敗北
 【2012年11月12日】 少し前まで米政界を圧倒的に支配していたイスラエル右派や軍産複合体は、今回の米国の選挙で敗北を喫した。大統領選挙だけでなく議会選挙でも、イスラエル右派や大富豪アデルソンが支援した共和党の候補者が何人も民主党候補に破れた。米国のイスラエル系の政治団体として、これまで米政界を牛耳ってきた右派のAIPACに対抗し、リベラル派のJストリートが台頭している。今回の選挙で、AIPAC系の候補者に落選が目立ったのと対照的に、Jストリートが支援した候補の7割が当選した。米政界でイスラエル右派が再起するのは無理との見方もある。

オバマ再選と今後
 【2012年11月9日】 米政府はリーマンショック後に財政余力を使い果たし、景気対策は連銀の金融緩和策(QE3)だけに頼っている。もともと連銀など中央銀行の役目はインフレ防止だったが、今や連銀の役目は量的緩和による景気テコ入れになっている。この状態は非常に不健全だ。

金塊を取り返すドイツ
 【2012年11月6日】 米英の経済覇権が揺らぐ中で、ドイツは、米英に預けたまま存在確認すら許されない金地金を取り戻す試みを展開している。対照的に、日本は対米従属に固執しているがゆえに、政治経済の両面で行き詰まっている。ドイツの動きは、いずれ世界的な「金の取り付け騒ぎ」につながるかもしれない。

中国は日本と戦争する気かも
 【2012年11月4日】 中国が尖閣沖で日本と海戦したり尖閣に軍を上陸させても、米政府が口で中国を非難するだけで米軍を動かさないと中国政府が考えているなら、米国が有事に際して日本を助けないことを顕在化させるため、中国は日本に戦闘を仕掛けるかもしれない。中国は、1974年にベトナムから西沙諸島を奪い、反中国的な近隣国であるベトナムに対して優位に立ったように、日本から尖閣を奪い、日本に対して優位に立とうとするかもしれない。こうしたやり方は中国伝統の中華思想(華夷秩序)の戦略とも符合する。

「危険人物」石原慎太郎
 【2012年10月30日】 石原は、中国との戦争も辞さずという態度だ。自国の戦争を容認するのは「悪」だと考える日本人が多い。石原は悪人だ。だが同時に、石原のような真の右翼が政権をとると、日本は対米従属を維持できなくなって民族自決の方向に流れていき、同時に戦後ずっと続いてきた官僚独裁体制が壊れて政治主導の体制になっていく。

イラクの石油が世界を変える
 【2012年10月25日】 従来はサウジが原油市場で大きな生産余力を持ち、他の産油国が石油価格を上げようとすると、米国がサウジに頼んで余力分を産油して放出し、価格を下げてきた。だが20年後の世界では、米国の言うことを聞かないイラクがイランと組んで大きな生産余力を持つことになりそうだ。米国はせっかくイラクを占領したのだから、世界第2位の埋蔵量を持つ西クルナ油田を軽視せず、イラク政府をおだてつつ米国の利権として開発していくべきなのに逆に利権を放棄するという頓珍漢なことをやっている。

EU統合と分離独立、ノーベル平和賞の関係
 【2012年10月23日】 EUのあちこちで分離独立運動が強まっている理由は、EUがユーロ危機の対策として政治統合を加速しているからだ。統合が進むほど、各国の国家権力はEUに剥奪されて縮小する。スコットランドやカタルーニャが中央政府に預けていた外交や国債発行などの権限がEUに移り、中央政府の意味が薄れ、分離独立して直接EUに加盟した方が良いことになる。またEUのノーベル平和賞の受賞理由は、EU統合が国連の世界政府化のモデルになっていることと関係している。

東アジアを再考する
 【2012年10月20日】 中国の国策は親米、対米協調である。その最大の理由は「米国が世界最強なので敵視しない方が良いから」でない。中国は、強くなるために近代化の促進を最重視し、近代化とは欧米化であり、第二次大戦後の欧米文明の主導役が米国だ。だから中国は親米なのである。中国の人民解放軍は、自分たちの軍隊を自慢するときに「私たちはNATO式の組織論を導入して近代化しました」と言う。中国の政府内で最も反米といわれる軍隊でさえ、NATO式、つまり米国式を採用することを近代化と自慢してはばからない。

米大統領選挙のゆくえ
 【2012年10月12日】 米国の世論調査でロムニーがオバマを追い上げるようになったのは、ちょうどイランが中東で台頭する傾向を強め、イスラエルがオバマ政権にイランに侵攻してくれと頼んで断られた後の時期である。イスラエル(在米右派)に、米国のマスコミや世論調査を操作する技能があることを考えると、夏以降の選挙戦で、ロムニーが本当にオバマを追い上げているのかどうか疑わしくなる。

尖閣で中国と対立するのは愚策
 【2012年10月11日】 中国は日本と戦争しないが、経済面で日本に被害を与え続けるだろう。数年前までの中国は、日本からもらいたい経済面の技術や知識が多く、日本に被害を与えるのでなく協調関係を優先していたが、中国は急速に経済技能を獲得し、日本に頼る必要性が減っている。対照的に日本は、市場の面で、中国の消費者を必要とする傾向が強まっている。このような経済面を見ると、日本が尖閣で中国と対立するのは愚策である。

米覇権とともに揺らぐ世界
 【2012年10月5日】 米国の中枢には不断の暗闘があって一枚岩でないが、長期的にどの筋が優勢かということは分析できる。911以来の流れの中で、米国中枢では隠れ多極主義が優勢だ。軍産複合体や、米国覇権を延命させようとする筋は、過激策に流され、覇権の自滅と多極化に貢献させられることが、この10年間ほど多くなっている。米国の覇権は今後、まっすぐ崩壊していくのでなく、ぐらぐらしつつ、もしくは渦巻き状に動きつつ、時間をかけて崩れていくのだろう。

EUに対抗して超国家化を狙う英国
 【2012年10月2日】 英国は、米国との同盟を弱められ、EUから離脱しそうな流れも強まり、急速に孤立している。窮地を脱するため、英国が開始したのが、カナダとの大使館共用に象徴される、旧英連邦(英圏)の再生だ。英政府はオーストラリアやニュージーランドなどとも大使館の共用をやりたいと報じられている。英国は、シンガポールやインドなど、先進諸国以外の旧英連邦の国々にも秋波を送っている。EUは、世界各地にEU代表部を作りつつ外交を統合し、EUの加盟各国の大使館の機能と権限を、しだいにEU代表部に移そうとしている。英国はこれに対抗し、英連邦各国の大使館を、英国の大使館に統合していくことを画策している。

尖閣問題と日中米の利害
 【2012年9月27日】 習近平政権の外交戦略が定まっていない今の微妙な状況下で、日本が尖閣国有化で中国のナショナリズムを扇動したことは、中国政界で左派を力づけている。尖閣や南沙の問題で、米国と同盟諸国が中国敵視を強めるほど、中国のナショナリズムが燃え、習近平の政権は左派に引っ張られ、対米戦略を協調姿勢から対決姿勢へと転換していく。米国は今後、財政破綻などで覇権が弱まると、国力温存と米国債購入先確保のため、中国敵視をやめて、一転して中国に対して協調姿勢をとる可能性が高い。米国の威を借るかたちで中国敵視を強めた日本は、孤立した状態で取り残される。

イスラム革命の進行
 【2012年9月24日】 イスラエルの今後を考えてくれる国は、欧米でなく、エジプトや中国やロシアである。エジプトのモルシー政権は、シリア内戦の調停を通じてエジプト・サウジ・イラン・トルコの4大国が中東の問題を解決する枠組みを作った後、その枠組みを活用してイスラエルと交渉してパレスチナ問題を解決し、イランとイスラエルを和解させて、イスラエルを国家存続させようとしている。核兵器やパレスチナの問題で、世界から非難される傾向が強まるイスラエルは、モルシーが提案する和解案に乗らざるを得ない。ヨルダン川西岸からの撤退が必要だ。政界に巣くう、撤退を拒む右派勢力を弱体化させることが必要だ。200発以上あるとされる核兵器の破棄も必要になる。

ドル過剰発行の加速
 【2012年9月20日】 米国のQE3は、ドルと米国債を自滅に導く。日銀の量的緩和は、短期的に円高を抑え、対米従属の国是を延命させるが、最終的に米国が財政破綻する時、日本は今よりもっと弱い国になっているだろうから、長期的な国家戦略として劣悪である。これらと対照的に、ECBの量的緩和策は、投機筋とEU当局の戦いであるユーロ危機において当局側を強化し、EU統合を加速し、米国崩壊後の多極型世界においてEUが極の一つになることに道を開く。

日本の脱原発の意味
 【2012年9月17日】 民主党中枢の考えは、今秋の選挙で負けて下野するだろうから、その前にかねてからの策を具現化しておこうということだろう。財界は猛反対している。財界よりも強力な勢力が、民主党政権を脱原発の方向に押している。私は、それは米国だろうと考えている。米国が日本を脱原発の方向に押しやっているというのは、私にとって311事故直後からの一貫した、この問題に対する見立てだ。今後、どの政党が政権をとっても、長期的に見ると日本は脱原発の方向に動くだろう。

日本の政治騒乱と尖閣問題
 【2012年9月13日】 今後、橋下徹らの革命が成功すると、日本は中国敵視と対米従属をやめていく可能性が高い。官僚機構は、それを阻止したい。そのための策が、尖閣をめぐる日中対立の扇動と考えられる。世論が「尖閣で中国に譲歩するな」と騒いでいる限り、誰が政権をとろうが中国と仲良くできない。尖閣の政府買い上げを実施すれば、中国政府は日本敵視を強め、日本で官僚機構が権力を失っても、しばらく日中対立が解消されなくなる。官僚機構は、橋下に潰される前に、尖閣問題を不可逆的に扇動する策に出たのだろう。

中国の次の戦略
 【2012年9月10日】 これからの10年、習近平の中国は、胡錦涛の中国が地ならしをやったことの延長をやっていきそうだ。その一つの分野は、台湾とチベットという、中国が「国内」と言っている地域の併合強化だ。また、今後10年間のどこかでインドが国策を転換し、中国との関係改善、上海協力機構への加盟へと進むだろう。中国は、印パとアフガン、中東やアフリカに対する影響力を強めるだろう。私が中国びいきなのでなく、中国が国際政治的にとても恵まれた位置にいることが背景にある。日本人が中国について分析を深めねばならない時なのに、マスコミは中国嫌いを国民に植え付ける利敵行為をしている。

自立的な新秩序に向かう中東
 【2012年9月7日】 米欧から濡れ衣をかけられて制裁され、米欧中心の世界体制に最も迷惑しているイランが、ちょうど今年から3年間NAMの議長国になり、テヘランでサミットが開かれた。中露や途上諸国の中には、以前からイランの核兵器疑惑を米欧による濡れ衣と看破し、米欧に批判的な国が多い。イランは、自国にかけられた圧力をはねかえすため、BRICSや途上諸国の結束を強化して米欧に対抗し、世界秩序を米欧中心から、イスラム世界を米欧の抑圧から解放しうる多極型に転換し、中東から欧米の影響力を追い出し、イスラエルを無力化し、イランを中東の主導国の一つにするところまでやろうとしている。

根強い金融危機間近の予測
 【2012年9月3日】 米国の投資家ピーター・シフは「今後2年以内にドルや米国債の危機が起こる。その結果、いずれ米国は金本位制になる。米連銀は間もなく米国債買い支えなど金融テコ入れ策(QE3)を余儀なくされるが、経済の回復がニセモノなのでQE3は効果を上げない。来年1月の財政の断崖を機に、危機が再燃する。財政赤字が増えてドルと米国債の信頼が失墜し、金本位制に移行せざるを得なくなる」と述べている。

金地金の復権
 【2012年8月30日】 米共和党が、通貨体制を金本位制に戻すべきかどうかを議論する金委員会の設置を決めた。刷るだけで価値を生む国債や通貨を失いたくない先進諸国の政府と金融界は、紙幣にとって価値のライバルである金地金の役割をできるだけ下げ、金本位制の復活を避けてきた。だが、リーマン倒産以来の金融不安定化を受け、金地金の価値を再重視せざるを得なくなっている。米金融界がバブルの再膨張という危険なやり方で延命しているので、金地金復権の傾向が今後も続くだろう。

東アジア新秩序の悪役にされる日本
 【2012年8月29日】 8月15日に米国で発表されたアーミテージ・ナイ論文が象徴する「米国が日本を、中国との敵対する方向に追いやろうとする」動きや、石原都知事が4月の訪米時に突如として尖閣買い上げを提唱したという、米国が尖閣問題で日本側を扇動している動きを見た上で、中国が尖閣問題で反日的な態度を強めていることを見ると、中国共産党は日本に対し「米国の傘下でなく独自に中国包囲網を強化できるというのなら、これでもくらえ。中国人の怒りを受けてみよ」という政治的な先制攻撃をしてきたと考えられる。日本は、対米従属が権力機構の最大関心事である以上、中国に毅然とした態度をとりきれず、腰が引けたまま、中国や韓国から便利な悪役にされている。

起きそうもない今秋の米金融危機
 【2012年8月17日】 米国の分析者たちの間で、今秋に金融危機が起きるのでないかという見方が出ている。だが、秋に大きな金融危機が起きるなら、夏の間に何か兆候があってしかるべきだ。以前より、危機が拡大しにくくなっている感じだ。リーマンショック後、学習効果なのか、危機が起きても拡大が抑止されるようになっている。11月には米大統領選挙があるので、オバマ政権は、その前に危機が起きないよう、抑止策を強めているはずだ。とはいえ、今秋に金融危機が再発しなくても、米経済が回復に向かうわけではない。問題は先送りされているだけで、解決されていない。

エジプト革命の完成と中東の自立
 【2012年8月14日】 エジプトのモルシー大統領が、従来の権力機構である暫定軍政のトップをしていたタンタウイ国防大臣らを更迭し、軍部から権力を奪った。ムスリム同胞団出身の大統領であるモルシーは就任直前、軍政が憲法を改定して大統領の権限を奪った。民主主義に基づくならモルシーと同胞団が政権をとるはずが、軍政の司法クーデターによって権力を制限されていた。今回の更迭は、軍政に対する同胞団側からの反攻で、ほとんど一本決めで同胞団が勝利し、軍部は劇的に権力を失った。イスラエルのハアレツ紙は、今回の更迭でエジプト革命が完成したと書いている。

李明博の竹島訪問と南北関係
 【2012年8月11日】 李明博が竹島を訪問し、日韓関係を悪化させることにしたのは、彼が属しているセヌリ党の次期大統領候補になるだろう朴槿恵が用意している次政権の国家戦略と関係している。来年、韓国が次の政権になったら、韓国の対北朝鮮戦略は、敵対扇動から対話重視に転換するだろう。今まで北朝鮮を敵視し、それを国民の政府批判をかわすはけ口にしてきた韓国政府は、今後もし北と仲直りするなら、どこかに別の敵を作らねばならない。米国は衰退しているものの覇権国で、中国は次のアジアの覇権国なので、米中とは関係を悪化できない。残るは日本だ。

CIAの血統を持つオバマ
 【2012年8月9日】 オバマ大統領は、おそらく若い時からCIAの要員として活動していた。少なくとも、オバマの母、父、母方の祖母、義父が、いずれもCIAのために働いていた可能性がある。またオバマは、米コロンビア大学の学生だった1980年代から、米国の諜報界の中枢にいたズビクニュー・ブレジンスキーに指導されていた可能性が高い。

米中関係をどう見るか
 【2012年8月3日】 米国は、百年前の辛亥革命以来、中国を民主的な国民国家にしようと引っ張りあげることを断続的に続けてきた。国際民主主義(世界政府)もしくは多極型の世界体制を希求してきた米国は、中国を、太平洋の対岸の、自国の鏡像的な戦略的伴侶に仕立てようとしてきた。中国は人口が多く、欧州と並ぶ歴史的大文明の国だ。そのため米国は、中国を、世界政府内の重要な立場の国に仕立て、中国を、米国自身やEU、ロシアと並び、多極型世界を担う勢力にしようと引っ張り上げてきた。

危ないのはEUや中国よりもドル
 【2012年7月31日】 いずれ起きる最大の危機は、ユーロでも中国でもなく、米国のドルと債券で起きる。ユーロや中国や日本は、小さな危機にすぎない。大危機の前夜かもしれない今の時期に、世界的な量的緩和が語られる意味は、ユーロや中国、日本などが原因でなく、米国のドルと債券を延命させるために、国際的に大規模な量的緩和があればありがたい、と米金融界が考えていることの表れと考えた方が良い。

ガザの開放、アラブの統合
 【2012年7月24日】 モルシー政権のガザ開放は、エジプトが、パレスチナ問題を従来と異なるものとして見始めたことを示している。ムスリム同胞団は、小さな国民国家が欧米に分断されて延々と兄弟喧嘩する従来のアラブ諸国の状況を乗り越える、汎アラブのイスラム主義を掲げている。アラブをイスラム主義で統合し、パレスチナ人とかエジプト人とかシリア人といった従来の国籍やナショナリズムを超越するのが同胞団の究極の目標だろう。国民国家を越えて地域を統合する試みという点で、ムスリム同胞団はEUと似ている。EUが顕在的に国家統合を試みているのに対し、同胞団は隠然と統合を進めようとしている。国民国家は人類史上、フランス革命の実験後、マスコミや教育で人々を洗脳して国民に仕立てて作られた、人工的なものだ。EUや同胞団の試みは、フランス革命以来の国民国家の事業を超える、新世代の人類の体制を模索している。

シリア政権転覆から中東大戦争へ?
 【2012年7月23日】 アサド政権が転覆された後のシリアの無政府状態は、レバノン、トルコ、イラン、イラク、サウジアラビア、ヨルダン、イスラエルなどに、政権転覆や国家消失を含む大きな悪影響を与えうる。シリアの崩壊は、中東の全体を、オスマントルコ帝国が瓦解した時代に引き戻してしまう。いくつかの国境線が引き直されるだろう。イスラエルとイスラム諸国との中東大戦争が起こるかもしれない。

経済自由化路線に戻る北朝鮮
 【2012年7月20日】 経済改革の実行役だった朴奉珠や廬斗哲の復権と、経済改革を阻止して先軍政治体制を守ってきた軍部代表の李英鎬の失脚を合わせて考えると、07年から最近まで続いてきた軍部が経済改革を阻止する時期が終わり、北朝鮮の中枢で経済改革派が権力闘争に勝って、軍部の力を排除し、再び経済改革を進める時期がきていると考えられる。北朝鮮の権力を、政府や労働党をさしおいて軍部が握る先軍政治の体制は、李英鎬の更迭とともに終わりつつある。

中国の台頭を誘発する包囲網
 【2012年7月18日】中国では来年にかけて、胡錦涛から習近平に権力が移る。習近平は早く権力を掌握するため、軍や世論との齟齬を嫌い、胡錦涛よりも反米的な外交姿勢をとるだろう。米国が日本やフィリピンを操って中国を敵視するほど、中国の上層部や市民が反米嫌いを強め、習近平の姿勢も反米的になる。中国が本気で米国を敵視すると、米国債を買わなくなって米政府財政とドルの破綻を誘発したり、世界運営の主導権を米国からBRICSに移行させたがるだろう。

英国金利歪曲スキャンダルの意味
 【2012年7月12日】 英国では、85年の米英金融自由化以来、金融が経済の大黒柱だ。米英の圧倒的な金融の強さが、80年代末から08年のリーマンショックまでの、米英の世界支配の力の源泉だった。LIBORは英国にとって、金融覇権を支える政治的に重要な金利値で、その値を安定的に推移させることが、英国の国際支配力の維持につながってきた。LIBORスキャンダルは、英国の金融覇権を破壊する。

国権を剥奪するTPP
 【2012年7月2日】 日本では官僚機構内部にもTPP参加に反対の勢力が多い。TPPに入ると、いくつもの分野で、日本の中央官庁がやってきた日本流の行政システムを放棄し、米国の大企業が米政府を通じて決めた米国の行政システムを導入しなければならない。これは、官僚が日本国内に対して持っている権力を失い、日本が米国の直轄領になることを意味している。日本は戦後、外交軍事や通貨金融の面で対米従属だが、その他の部門は官僚機構による自治が認められていた。TPPは、その自治を減らすものだ。外務省などは対米従属の維持のためにTPPに入るべきと言うが、官僚機構の全体としてはTPPに賛成できない。

イスラム民主主義が始まるエジプト
 【2012年6月25日】 エジプトでは軍政と同胞団の権力争いがしばらく続きそうだ。だが、不安定はそれほど続かないだろう。米国もイスラエルも、軍政が権力に固執して事態が混乱するよりも、同胞団の政権できて事態が安定する方を望んでいるからだ。同胞団の政権が安定したら、パレスチナ和平が進む可能性がある。

ユーロは強化され来年復活する?
 【2012年6月23日】 米国では、来年から米政府の財政赤字を強制的に切り詰める法律が制定されている。来年早々、米国の金融財政が危機になりそうだ。そうなると米国の投機筋がユーロ圏を攻撃する資金を調達できなくなり、危機が欧州から米国に移転する。その中で、EUが危機から脱し、政治統合の効果が見え始める可能性がある。

米露関係の変化
 【2012年6月21日】 米国が、太平洋の国際海軍演習「リムパック」に、初めてロシア軍を正式参加させた。米国はロシアに対し、いくつもの面で気をつかっている。プーチンは、米国の覇権を軽視する態度を崩さないまま、米国の気遣いに乗っている。ロシアがリムパックに参加したのも、ロシアが中国との関係を切って米国の中国包囲網に乗ったのでなく、米国から誘われるとリムパックに参加し、中国から誘われると黄海で中露合同の軍事演習をやっている。

在日米軍問題を再燃させるオスプレイ
 【2012年6月20日】 オスプレイは、昨年からの米軍のアジア重視戦略の中で日本などへの配備が進まないと、高い金をかけたのに欠点が多く役立たずだと主張する米政界の反対派を勢いづけ、財政削減議論の中で開発が中止されかねない。この流れを止めるため、米軍と軍事産業はオスプレイを日本やハワイの海兵隊基地に配備する計画を進めている。日本が配備を断ると、オスプレイはグアム島やテニアン島に配備されるかもしれない。その場合、海兵隊の主力が普天間からグアム方面に移転する。これは日本の権力機構(官僚)にとって、対米従属の根幹にいる在日米軍が撤退し、官僚の権力を支える対米従属の国是が失われ、官僚が失権することを意味する。野田内閣は官僚の言いなりだから、官僚と野田政権は、何が何でもオスプレイを日本の基地に配備する姿勢になっている。

エジプトの司法クーデター
 【2012年6月17日】 エジプトで、大統領選挙の決選投票日の3日前、最高憲法裁判所が議会の解散を宣言した。だが憲法裁判所は、議会が可決した法律を違憲と決定できても、議会そのものを解散させられない。憲法裁判所はこれまでに3回、議会を解散する決定を発したが、議会はそのまま存続している。議会は、今回の決定も、法的な判断でなく政治的な動きでしかないと言っている。ムスリム同胞団は、モルシーの大統領当選後、同胞団主導の議会を解散を拒んだまま、軍政との間で交渉や政争を展開し、軍に防衛費などの面で自治権を与えて権力を移譲させる戦略だろう。今後、同胞団と軍政が対立し続けるのか、それとも談合できるのかが注目される。

ホルムズ海峡の暗雲再び
 【2012年6月15日】 イランは経済制裁で原油輸出が急減したままになると、ホルムズ海峡を封鎖するだろう。アジアに向かう原油の大半が供給停止になり。日中などアジア諸国は大打撃を受ける。オバマ政権は、イランの空港に着陸した航空会社に米国の空港への着陸を禁じる追加制裁を検討している。米国は本気でイラン制裁を強化しそうだ。中国はいずれ、米国との対立を深めてもイラン原油の輸入を増やし、イランを窮地から脱出させる必要がある。経済面でイランの窮地を救えるのは中国だけだ。中国は、対米関係を重視して一時的にイラン原油の輸入を減らすかもしれないが、イランが海峡を封鎖するまで米国の制裁につき合うわけにいかない。

シリア虐殺の嘘
 【2012年6月13日】 ホウラで村人らを虐殺したのはシリア政府軍でなく、反政府勢力の方である可能性が高い。虐殺で殺された村人の多くは、アサド政権と同じアラウィ派イスラム教徒だった。シリアの政府軍や政府系民兵組織は、幹部の多くがアラウィ派だ。内部の団結が強いアラウィ派が、同じ派の人々を殺すはずがない。半面、反政府勢力は、サウジアラビアに支援されたスンニ派イスラム過激派(いわゆるアルカイダ)で、アラウィ派やシーア派を敵視し、宗教上異端なので殺しても良いと考える傾向が強い。虐殺の動機は、政府軍より反政府勢力の方に強い。政府軍が殺したのなら、戦車砲や迫撃砲で家ごと破壊されていたはずだが、殺された村人は至近距離から撃たれたり、のどをナイフで掻き切られたりしている。これは、アルカイダが異端者を殺す典型的なやり方だ。

「エアシーバトル」の対中包囲網
 【2012年6月11日】 エアシーバトルは、米軍が従来型の攻撃で中国に勝てなくなった新状況を踏まえた、新たな戦争の概念だ。それは、沖縄の基地にアジアの駐留米軍を結集してきた従来の展開を改め、テニアン島や東南アジアに米軍の拠点を復活・新設して分散展開するとともに、従来より中国を遠巻きにする中国包囲網に転換し、中国からのミサイルが届きにくい領域に米軍を置く戦略だ。だが、経済面、財政面から見ると、この戦略は具現化できない。米国が中国と戦争することはない。日本の権力層である官僚機構にとっても、エアシーバトルは対米従属を難しくする迷惑な話だ。

ウイルス「フレーム」サイバー戦争の表と裏
 【2012年6月8日】 カスペルスキーの社長は、フレームがもたらすものが「サイバー戦争」でなく「サイバーテロ」だと表明した。この言い換えは重要だ。米イスラエルがイランに核兵器開発の濡れ衣をかけた上でサイバー攻撃を仕掛けていることを踏まえると、米イスラエルは、イランという無実の国をサイバー攻撃する「サイバーテロ国家」である。米イスラエルの行為は「サイバー正当防衛」でなく「サイバー侵略戦争」になる。この善悪の転換は「米国がサイバー侵略戦争をするサイバーテロ国家であることがわかった以上、米国にネットの管理を任せておけない」「国連が管理すべきだ」という話につながる。

米中のアジア覇権シーソーゲーム
 【2012年6月6日】 米国は、東アジア(東南アジア)で南沙問題に介入し、中国包囲網を構築している。だが西アジア(アフガン、パキスタン)では、中国や上海機構によって影響力を駆逐されていく方向だ。中国は、東方で米国からの圧力を受けているが、西方では米国の覇権に風穴を開けている。米国と中国は、アジアの覇権をめぐってシーソーゲームをしている。米国は、中国を覇権争いのゲームに引っ張り込み、東で中国の覇権を圧しているつもりが、西で中国に覇権を奪われつつある。

中国包囲網の虚実(3)
 【2012年6月5日】 米国は、海洋法条約を批准しない一方で、海洋法条約を前提とする紛争である南沙問題に介入し、中国沖の200海里内の海域に米軍艦を航行させ、他国どうしの対立に介入する大国としての公正な態度を欠いている。ASEANの諸政府は、危うい姿勢の米国が、味方をしてやると言って南沙問題に介入して中国との敵対を煽動するのを見て、ありがた迷惑と思っている。米国や日韓、ASEANの動きを全体として見ると、中国包囲網を強化する方向でない。むしろ中国が、世界の運営に参加する大国の一つになることを容認している。半面、パネッタ国防長官の言動など、中国敵視策を強化するためと報じられる米政府の動きは、芝居がかった動きに見える。

中国経済はクラッシュするのか
 【2012年6月1日】 中国経済の急減速は、悲惨なクラッシュになり、中国の社会政治の混乱や、国際社会での地位低下までつながり、中国が国際台頭していた時代が終わる可能性がある。インド経済も減速しており、ブラジルやロシアも悪化しそうで、BRICSは世界経済を牽引できなくなる。世界の多極化は逆流し、米英覇権が蘇生し、日本は対米従属を続けられる。だがその逆に、減速をきっかけに、中国政府が経済構造改革が進めば、時間はかかるだろうが、中国は製造業の高付加価値化と内需主導の経済成長へとソフトランディングする。中国は、成長を鈍化させたうえで長期的な成長構造を確保し、先進国の仲間入りをする準備を整える。

福島4号機燃料プール危機を考える
 【2012年5月30日】 4号機のプールを大損傷させる余震が起こらないとは言い切れないが、起こる可能性が高いとも言えない。大きな余震が起きて4号機のプールに亀裂が入って水が抜けても、空気の対流によって冷却が行われ、使用済み燃料棒の温度は170度ほどで止まるといわれている。世間では「余震で事故が起きないと言い切れない」という点だけが強調され、人々をいたずらに不安に陥れている。私が見るところ、今後の余震で4号機のプールが倒壊する確率は、非常に低い。「4号機プールはたぶん倒壊する」といった言い方をする人は、事態を客観的に見ず、人心をかき乱す扇動をしている。

エジプトがムバラク時代に戻るかも
 【2012年5月29日】 エジプトの軍部は、敵視するムスリム同胞団のモルシーが大統領選挙の決選投票で勝ちそうになったら、元軍人のシャフィクを勝たせるために不正をするかもしれない。同胞団は抗議行動を起こすだろうが、シャフィクが大統領に就任した後、同胞団を治安を乱す犯罪組織とみなし、容赦なく弾圧し、再度の非合法化までやるかもしれない。事態はムバラク政権の時代に戻りかねない。シャフィクが大統領になったら「ミニムバラク」になり、エジプトは米イスラエルの傀儡国に戻りそうだ。

インターネットの世界管理を狙うBRICS
 【2012年5月28日】 インターネットは、米当局が初期の開発を行った後、建前的に非政府化され、その背後で米当局が隠然と影響力を行使してきた。これに対し、米覇権くずしを狙うプーチンらBRICS+上海機構という多極化勢力が、自分らの支配下に入りつつある国連を使い、ネットの隠然米覇権体制を解体し、国連傘下のITUにネットの世界的な管理権限を移行させようとしているのが、今の動きの本質だ。ITUは今年12月にドバイでサミットを開く予定で、BRICSはサミットの場で、ネットの世界的な管理権をITUが持つよう決議することを狙っている。

イラン核問題が妥結に向かいそう(2)
 【2012年5月23日】 イラン核問題をめぐる交渉は、イランが軍施設の査察に応じ、20%のウラン濃縮をやめるか、もしくは米イスラエルが20%濃縮停止要求を取り下げることで、妥結の方向に動いていきそうに見える。しかし米国を見ると、妥結とは逆方向の動きが起きている。米議会上院は5月21日、イランに対する制裁を強化する法案を可決した・・・

米覇権後を見据えたイランとサウジの覇権争い
 【2012年5月21日】 イランとサウジの覇権争いは、中東における米国の覇権が低下した結果、起きている。米国が強ければ、サウジはその傘下にいるだけで良い。イランは米国に封じ込められ続けるか、米国に許してもらうために穏健化するしかない。米国がイラク占領に失敗し、民主化を扇動しつつ信用失墜したため、イランは強くなり、サウジは米国に頼れなくなって、互角の覇権争いが起きている。

ユーロ危機と欧州統合の表裏関係
 【2012年5月17日】 ギリシャ政治危機でユーロが解体するかもしれないと言われている。だがよく見ると、危機のどさくさ紛れにEUが統合を促進するという、以前からの動きと同じものが今回も行われている。EUは、財政協約によって緊縮方向の財政決定権を各国から奪い、成長協約によって拡張方向の財政決定権を各国から奪って、EUの政治統合を進めようとしている。

米金融バブル再膨張のゆくえ
 【2012年5月15日】 JPモルガンが、自社が創設したCDS市場の取引で多額の損失を出し、自らの失敗を認めたことは、世界の金融関係者にとって衝撃だ。賭博場で胴元が大損することは、ルーレットの動きが統制(八百長)不能になっていることを意味する。賭博(市場)の先行きが見えなくなっている。大手の投資家の多くが、CDSの取引を手じまいにして賭博場から引き上げることを検討し始めたと懸念される。

北朝鮮で考えた(3)
 【2012年5月13日】 外国人に対し、学生で満員の大学図書館や、市民で満員の音楽情報センターを見せた方が、北朝鮮の国際イメージがずっと良くなるはずだ。ほとんど利用者がいない素晴らしい施設を「金正日総書記のおかげで作られました」「最新の電子技術です」と説明して見せたがるので、外国人たちから「見せ物だ」「うそくさい」と思われてしまう。プロパガンダが大好きな国家なのに、やり方が稚拙だ。

北朝鮮で考えた(2)
 【2012年5月11日】 計画経済体制は市場経済体制より経済効率の面で劣っている。だが、北朝鮮が今の独裁体制を維持する政治目的から見ると、計画経済体制は非常に強い。計画経済の体制下では、人々が国家からの配給に頼って生きており、国家の権力者が人々の生殺与奪の権限を握っている。このような状況下では、自由市場が大手を振って保障されている中国や資本主義国に比べ、国家のプロパガンダが効きやすいし、国家的な団結を維持しやすい。

北朝鮮で考えた(1)
 【2012年5月6日】・・・焼き肉パーティーをできる人は平壌市民の中でも一部の金持ちだけで、多くの市民は肉などめったに食えないはずだという見方もあるだろう。確かに平壌市民は貧富に関係なく同じような服を着ており、外見から経済状態を識別できない。しかしこの日、竜岳山以外の多くの公園や緑地で、焼き肉パーティーをしている人々を見た。食い残しが散乱していたが、拾いに来る者もいない。焼き肉パーティーは平壌市民にとってありふれた行事に見えた。

ミャンマーの開放
 【2012年4月25日】 米欧がミャンマー制裁を解除した動機は、制裁が効かなくなる中で中国がミャンマーの利権を独り占めする傾向が強まったからだ。しかし制裁の解除で最も得をするのは、欧米や日本でなく、すでにミャンマーの市場を席巻している中国企業だ。米国は、制裁を解除したことで、中国とアジア諸国がミャンマーへの関与を強め、中国中心のアジアが台頭する時代が早く来ることを手助けしている。ミャンマーが安定し、経済発展していくと、中国、インド、東南アジアをつなぐルートが確立し、アジア全域の経済関係が緊密化する。

あたらないミサイル防衛
 【2012年4月23日】 米会計検査院が、イージス艦などを使ったミサイル防衛の迎撃システムについて、うまく迎撃できることが確認できないまま配備されていると批判する報告書を発表した。米国防総省は昨年度、ミサイル防衛について5回の試験をしたが、いずれも失敗に終わった。昨年末、国防総省の技術顧問団も、飛来した敵国のミサイルが本物の弾頭の周囲に「おとり」を飛ばしていた場合、米国側の迎撃ミサイルがおとりと本物の区別がつかず、迎撃に失敗する点などを指摘する報告書を出した。報告書は重要な内容を持っていたが、ほとんど報じられなかった。

中南米の自立
 【2012年4月19日】 今回の米州サミットは、グアテマラ大統領が主導して「麻薬取り締まりを『戦争』としてとらえる米国主導の従来策はうまくいかない。いくら厳しく取り締まっても、需要がある限り密売は続く。むしろ、麻薬を犯罪扱いすることをやめて、酒やタバコに関するような規制策と麻薬中毒治療の重視に転換した方が、密売価格が下がって麻薬組織が弱くなり、効果がある」という主張が会議を席巻した。サミットは、中南米諸国が米国の「麻薬戦争」の失敗を宣言した会議として画期的なものになった。従来、学者や各国の元高官が麻薬戦争の失敗を宣言してきたが、関係諸国の首脳が集まる外交の舞台上で麻薬戦争の失敗が宣言されたのは初めてだ。

サウジアラビアの脆弱化
 【2012年4月17日】 サウジ原油の生産余力は縮小している。人口急増で、国内の石油消費が増え続けている。国内消費増が続くと、サウジの原油生産余力は2020年にゼロになる。サウジの生産余力が失われると、米国の覇権維持もおぼつかない。対照的に、生産余力が急拡大しそうなのがイラクだ。イラクは、米国の仇敵イランの傘下にいる。バーレーンの民主化要求運動でも、サウジが劣勢に、イランが優勢になっている。

覇権体制になるBRICS
 【2012年4月14日】BRICSサミットで表明されたデリー宣言は、国際政治の体制を、従来の米国主導からBRICS主導へと転換する流れを描いている。これは米国から覇権を奪う動きでない。米国の覇権が崩れそうな中、世界の混乱を避けるため、BRICSが米欧に代わって集団で覇権の運営する動きだ。

北朝鮮の人工衛星発射をめぐる考察
 【2012年4月12日】 北が衛星を発射したら、米国は2月末の米朝合意で決めた食料支援を正式に棚上げするだろう。すると北はその報復として、2月末の合意に基づいて寧辺核施設に招き入れたIAEAの査察団を再び国外退去させ、3度目の核実験をやるかもしれない。2月末の米朝合意は破綻しそうだ。

イラン核問題が妥結に向かいそう
 【2012年4月10日】 イスラエル政府はこれまで、核問題でイランが何を譲歩したら解決と見なすかについて、全く語ったことがなかった。イスラエルが今回、フォルドの閉鎖と濃縮ウラン放棄を解決の条件として出してきたことは画期的だ。イラン核問題が妥結に向かいそうな流れが見えてきた。

米金融活況の下に潜む危機
 【2012年4月8日】 米金融界は完全に立ち直ったかに見える。しかし活況は、リーマンショックで崩壊した債券金融システム(影の銀行システム)が何とか再生された結果であり、債券金融の活況はリーマンショック前のバブル膨張の再来を意味する。どこかで再びバブル崩壊が起こりうる。米政府の財政赤字削減が先送りされ、米国債に対する信頼が再び揺らぎかねないため、昨夏の米国債格下げの先鞭をきった米国の独立系債券格付け会社イーガンジョーンズは先日、2度目の米国債の格下げに踏み切った。

日本の原発は再稼働しない
 【2012年4月5日】 オバマ政権が日本の原発を潰したい理由は、原発産業が米国で強い政治力を持つ軍産複合体の傘下にあるからだ。日本は1970年代以来、軍産複合体のために挺身的な貢献をし続けてきた世界で唯一の国だ。日本が複合体を支える構図は、オバマが複合体の力を弱めようとするのを阻害している。米政府は、日本政府が出す在日米軍への贈賄的な支払いを振り切って、沖縄の海兵隊をグアム島などに移転する話を進めている。それと同様の動きとして、米政府は、福島原発事故直後、事故の評価を世界最悪の「7」まで引き上げるよう日本政府に圧力をかけたり、その後の原発の全停止、再稼働の事実上の禁止などの圧力をかけている。日本の原発は再稼働しにくい。

露中主導になるシリア問題の解決
 【2012年3月31日】 米国が目立たない形で態度を転換し、国連のシリア和解案はロシア主導でまとめられることになった。シリア問題の主導役が、米国に支援されたサウジやアラブ連盟といった反イラン勢力から、ロシアや中国という親イラン勢力に移ったことで、イランの立場も強化されている。シリアの新しい事態は、イラン核問題の進展にも影響を与えるだろう。

薄熙来の失脚と中国の権力構造
 【2012年3月26日】 薄熙来は、失脚せず政治局常務委員になっていたら、大衆動員の政治力を使って、これから最高権力者になる習近平の政策に影響を及ぼしていただろう。習近平は、胡錦涛・温家宝が自分の権力就任前に薄熙来を排除するのに賛成したはずだ。薄熙来の動きを放置すると、薄熙来を真似て大衆扇動で政治力を獲得しようとする党幹部が他にも現れ、トウ小平が作った集団指導体制が崩れ、中国の政治が不安定化していたかもしれない。

転換前夜の東アジア
 【2012年3月22日】 6カ国協議は、東アジアの国際関係を大きく転換する。従来の、米国の単独覇権体制や、米国対中露の冷戦体制が終わり、米国が朝鮮半島などにおいてある程度引っ込む半面、中国がある程度台頭し、米中の「G2」が東アジアの中心になり、その周りで日韓などが連携するようになる。今は、この転換に向かう前夜であるが、転換は目立たない形ですでに始まっているともいえる。日中間では、ドル決済に代わって円と人民元を使う貿易体制への準備が進んでいる。日本では米国とのTPPの交渉が大きく報じられるが、その裏で日中韓FTAの協議が進んでいる。

敗走に向かうアフガニスタンの米欧軍
 【2012年3月19日】 アフガニスタンはイラクに比べて撤退路をめぐる不安が大きい。アフガン駐留の米欧軍は閉じこめられた心境になりやすく、浮き足だって士気が落ちやすい。うまく撤退できないと、オバマ政権の失点になる。今年は11月に米大統領選挙がある。オバマは、アフガンの国家再建を断念し、早くうまく撤退したい姿勢を強めている。米軍は従来、14年末にアフガン軍に指揮権を移譲する予定だったが、最近それを前倒しして、13年中頃にアフガン軍に指揮権を委譲し、その後14年末までは戦闘せず、アフガン軍の訓練だけに徹する方針に転換した。

日本をユーラシアに手招きするプーチン
 【2012年3月16日】 日本政府は、官僚主導が続こうが、もしくは政界による「真の民主化」が達成されようが、日米同盟の崩壊(空洞化)で対米従属が続かなくなったら、米国をあてにせず独自に中国の台頭と対峙せねばならなくなる。その時、プーチンが発する「中国を台頭させすぎないよう、日露で組もうよ」という提案が、対米従属の眠りからさめた日本人の目に、突如として現実味を持った話に見えてくる。その事態がいつ来るのか、日本の政局からはまだ見えてこない。だがプーチンには、あと12年も時間がある。

多極化の申し子プーチン
 【2012年3月14日】 米英中枢に、ロシアを強化して地政学的な逆転を引き起こそうする勢力がいる。その目的は世界規模の「資本の論理」だろう。ユーラシアを外側から支配し、ユーラシアの内側の経済発展を抑止してきた米英の覇権を、ユーラシア内側から転覆させることで、ユーラシアの内側やアフリカ、中南米など、米英覇権が支配力維持のために発展を阻害してきた世界の発展途上諸国の経済発展を誘発し、世界規模の経済成長を実現する長期戦略だと考えられる。この10年、プーチンの登場によって、この戦略は大きく実現した。

中露トルコが中東問題を仕切る?
 【2012年3月12日】 イスラエルは今後いずれかの時点で、米国を通じて世界を動かすことに期待するのをやめて、代わりに中露やBRICに接近するのでないか。もし今後、イランやシリアに対する欧米の敵視が弱まり、中露やトルコがシリア内戦とイラン核問題を仲裁して解決できるとしたら、中露やトルコはそこで得た国際信用力を使って、イランとイスラエルとの和解を仲裁できる。

スコットランド独立で英国解体?
 【2012年3月9日】 スコットランド独立運動の背景の一つは、911以来の米国が、中東において残虐で嘘つきで反国益的な戦争に明け暮れた挙げ句、イラクもアフガニスタンも失敗したことだ。米英同盟を国是とする英国は、米国の愚かで不正義で失敗する戦争につき合い続けねばならなかった。スコットランドは、英国の一部として若者を米国の愚かな戦争に従軍させねばならず、多くの人が「米英同盟なんかくそ食らえ」と思うようになった。

米国を真似て財政破綻したがる日本
 【2012年3月8日】 日本はこれまで、国内金融機関が国民の預金や保険料の投資先として国債を買っていた。これは、無から有を生み出す増刷による国債買い取りより健全だった。だが今後は、不健全な増刷による買い取りが増えていく。官僚機構は、ドルや米国債の破綻に合わせて円や日本国債をも破綻させようとする「無理心中」のモードに入ったのかもしれない。日本は、戦後の対米従属の時代に営々と築いてきた国富を、米国の衰退によって対米従属が終わる前に自滅的に全部吐き出そうとしているようにも見えてきた。

景気回復という名のバブル再膨張
 【2012年3月5日】 米国は本質的な景気回復をしていない。解雇が底打ちしただけで新規雇用が増えていない。失業率低下の大きな理由は、不況の長期化で職探しをあきらめた人が増えたことだ。米企業の復活を支えるのは依然として、リーマンショックで戒められたはずの債券の錬金術である。このバブル膨張を放任すると、いずれ危機が再燃する。米国はこれまでの危機で金融財政的な力をかなり使い果たしており、次回は、これまでよりもっと大きな崩落になると、悲観的な分析者たちが懸念している。

民主化するタイ、しない日本
 【2012年2月29日】 日本とタイは、政治権力の構造が似ている。表向きは自由選挙の民主主義だが、政治家の権力行使を阻止する官僚機構(タイは軍部と王室の複合体)が強く、民主的に選ばれた政治家が権力を発揮できず、実質的な官僚独裁体制が続いてきた。とはいえここ数年、日タイの状況は異なっている。タイにはタクシンがいるので民主化が進んだが、日本には同様の存在がいない。09年秋の政権交代以後、日本でタクシン的な存在になるかもしれなかった小沢一郎らが、官僚機構との闘いに勝てない状態が続き、日本は政治的にタイより遅れている。

東アジアの脅威移転と在日米軍撤収
 【2012年2月27日】 米国が進めている海兵隊の沖縄撤退は、米国の広範な戦略転換の一部にすぎない。米国は、台中対立と北朝鮮という、冷戦後の東アジアの2大脅威が消失しつつある状況をふまえて「脅威が薄れているのだから、日本にも韓国にも、米軍の恒久駐留は必要ない」という理屈を展開している。米政府は、脅威の消失をいやがる軍産複合体をなだめるため「代わりの脅威」を用意した。それが、一昨年夏に突然、米政府が「公海上の航行の自由の確保」という口実をつけて介入し始めた南沙群島問題である。

イラン危機が多極化を加速する
 【2012年2月24日】イラン制裁が続くほど、イランと、その周辺の中東や中央アジア、コーカサス、北アフリカにおいて、中国、ロシア、インドなどのBRIC諸国やトルコ、イラン自身が、米国の覇権体制を無視して政治経済の活動を行う覇権多極化の度合いが強まる。米国の影響力が弱まり、EUなどより多くの国々が、米国の覇権下にいることの愚かさを感じるようになり、多極化に拍車がかかる。

日本の権力構造と在日米軍
 【2012年2月22日】 日本の官僚機構が対米従属に固執し続けた戦後史をふまえると、米国は沖縄返還とともに日本から米軍を全撤退しようとしたが、日本が米国を買収して思いとどまらせ、米軍は沖縄だけに恒久駐留を続けることになったと考えるのが妥当だ。日本人は「米国は日本を支配し続けたいのだ」と考えがちだが、これは、官僚機構が自分たちの策略を人々に悟らせないために歪曲された考え方だ。

多極化に呼応するイスラエルのガス外交
 【2012年2月15日】イスラエルに対し、鉄道建設する見返りにガスを輸入する権利を得ることは、中国の戦略そのものだ。ガスを介した中国とイスラエルのつながりは、単なるガス利権をめぐる話で終わらない。中国との戦略関係を深めることで、イスラエルは、米国を巻き込んで陥っている国家戦略上の行き詰まりから脱却できる可能性が出てくる。さらには、世界の覇権体制を変える話にもなりうる。

米国金融規制の暗雲
 【2012年2月12日】 ドットフランク法の改革が米金融界に及ぼす影響として3段階の可能性がある。最も軽度なのは、米金融界も債券金融システムも大した影響を受けないもの。2番目は、米金融界は大幅減益で大勢が解雇されるが、金融システムは無傷な場合。最重度の3つ目は、債券金融システムの流動性が低下してリーマン倒産直後のようなシステム的な市場の崩壊が起こり、債券金利が上昇し、金融界が大打撃を受けるだけでなく、リーマン後のような世界不況、ドル基軸制の危機が再燃する場合だ。

シリアの内戦
 【2012年2月9日】 NATOとGCCがシリアの反政府ゲリラを支援してアサド政権を転覆したい理由は、アサドがイランと親しくし、イラク米軍撤退後、イランが台頭して地中海からアフガニスタンまで広い影響圏を確保し、ペルシャ湾のGCCにとってイランが脅威になったからだ。アサド政権が転覆され、シリアが反イランに転向すると、新生シリアはとなりのイラクのスンニ派ゲリラを支援し、イラクをスンニ派対シーア派の内戦に陥らせて弱体化でき、イランの台頭を防げる。シリアの政権転覆をめぐる闘いは、実はイランとの闘いである。

中国とアフリカ
 【2012年2月6日】 工業化はアフリカ諸国にとって独立以来の夢だったが、欧米に頼んでも実現できなかった。それが中国に頼むと、資金を貸してくれ、インフラ整備も中国企業がやってくれて、工業化を開始できる。この状況を「中国は、アフリカの独裁で腐敗した政府高官に贈賄し、インフラを整備してやると甘言を吐き、利権を悪辣にあさっている」と批判することもできる。しかし現実を見ると、アフリカは経済発展によって、保健衛生や教育水準の分野も改善している。10年で世界で最も経済成長した10カ国のうち6カ国がアフリカだ。欧米がこの数十年間やれなかったアフリカの発展を、中国が実現しているのは確かだ。

イラン制裁はドル覇権を弱める
 【2012年2月1日】米国は、イラン原油のドル建て取引を禁じる制裁を開始したことで、原油国際取引の通貨の多様化を起こしている。ドルを国際決済通貨として使う国際信用が維持されていれば、ドルの覇権が保てるかもしれない。だが、今のように米政府がドルの決済通貨としての地位を粗末に扱っていると、債券バブル崩壊との相乗効果で、ドルの基軸性が崩れる懸念が強まる。

ユーロ危機からEU統合強化へ
 【2012年1月31日】今後も、表向きの欧米協調は続くだろうが、米英がEUを壊そうとして、EUが壊されず防衛に成功しつつある以上、裏の本質的な意味で、欧米協調体制は崩れていくだろう。米英覇権を協調的に維持するには、少なくとも金融経済の部門において、欧米協調が必須だった。ユーロが崩壊していたら、EU諸国は国ごとにずっと対米従属を強いられただろうが、今回の財政統合開始でユーロが防衛できる可能性が高まり、逆にEUが対米協調から離れていく流れが強まった。

米ネット著作権法の阻止とメディアの主役交代
 【2012年1月25日】・・・諜報機関は政府組織だが、グーグルは民間企業なので、全く別物だという反論もあるだろう。しかし、諜報機関の方からグーグルにすり寄ってきて、既存の政府傘下のプロパガンダ機能を使ってグーグルのイメージを向上させ、株価上昇を手伝ってあげるから、米国の国益や「テロ対策」のために協力してくれないかと誘われたら、企業として、株主と米国家の利益を考えた場合、協力した方が良いということになる。そもそも911以後の米国のテロ戦争の有事体制下では、米企業が集めた個人情報を、米当局がテロ対策の名目で検閲することが可能だ。

イラン・米国・イスラエル・危機の本質
 【2012年1月21日】 イランの脅威は核兵器でなく、中東全域に張り巡らされた影響力のネットワークである。今後、撤退する米軍と交代にイランの影響力が拡大する。サウジアラビアとイランはしだいに協調関係になり、イランは世界最大の油田地帯を影響下に入れ、国際原油市場に大きな影響力を持つ。半面、イスラエルは米国の後ろ盾を失う上、仇敵のイランに台頭されて孤立する。すでに経済制裁でイランを潰すの困難だ。イスラエルが亡国を防ぐには、米国が中東の覇権を持っている間に、イランと戦争するしかない。

中東で台頭するサラフィー主義
 【2012年1月17日】 カタール王家は、自国の宗教的な状況を活用し、アラブ全域で台頭するサラフィー勢力を裏から積極的に支援し、中東での影響力を拡大しようとしている。米欧のプロパガンダ戦略は、カタールやイスラム主義勢力に大きな追い風だ。シリアもリビアもエジプトもチュニジアも、世俗的な独裁政権が倒されてイスラム主義政権になり、アラブ全体がイスラム主義で統合されていく。カタールはそれを後押ししている。対照的にサウジ王家は、対米従属的な消極姿勢に徹している。カタールは、サウジのワッハーブ主義者をたきつけ、サウジ王政の転覆を試みている。

北朝鮮の中国属国化で転換する東アジア安保
 【2012年1月13日】 北朝鮮は、中国の属国になったので、今後長期的に見ると、好戦策を引っ込め、中国の傘下で安定を好む傾向が強まる。これは、北の脅威に対抗することを前提に、永続的な米軍駐留を大黒柱とする、日本と韓国の安全保障戦略の根幹の事態を変える。北の脅威が消えていく方向が見えだしたのだから、日韓は、米軍駐留を不要とみなすなど、安保戦略の見直しが必要になる。

イラン制裁の裏の構図
 【2012年1月10日】 中国政府は、米国のイラン制裁策に参加しないと表明している。米政府は中国を非難して制裁すべきだが、実際には、中国がイラン石油制裁に参加しなくても何の報復もせず、中国を例外扱いしようとしている。インドも例外扱いになりそうだ。日本や韓国という、米国に忠誠を誓う国々には「イラン制裁に参加しないと貴国も制裁するぞ」と脅す半面、きたるべき多極型世界の大国群である中国やインドには制裁参加を拒否することを容認する態度を、オバマは採っている。

正念場にきたユーロつぶし
 【2012年1月8日】 ドルが自滅を免れ、米英覇権が延命するかどうかという、金融世界大戦が続いている。今年3月をすぎてユーロが延命できると、EU財政統合が効果を持ち始め、ユーロが優勢に、米英が劣勢に転じるかもしれない。この金融世界大戦は、今年の1-3月が一つの山場になりそうだ。新年に入って「いよいよユーロ崩壊だ」とはやし立てる国際マスコミの記事が目につくことからも、それが感じられる。

トルコとEUの離反
 【2012年1月4日】 中東はアラブの春を機に百ぶりに欧米支配を脱却し、自決できる独自の勢力になろうとしている。本来ならEUは、中東の大国で最も世俗性があるトルコと協調し、中東で影響力を残した方が良い。フランスは特にそうだ。それなのにフランスが採った方策は正反対だ。サルコジは選挙で有利になるために、アルメニア人虐殺法案やEU加盟遅延でトルコを怒らせ、EUから離反させて、中東を欧米から自立して世界の極になる方向に押しやっている。

TPPより日中韓FTA
 【2012年1月1日】 日本も韓国も、米国より中国との貿易取引が多額で、中国が最大の貿易相手国だ。長期的には、TPPや米韓FTAより、日中韓FTAが重要な貿易の枠組みである。TPPや米韓FTAは米国主導で中国排除、日中韓FTAは逆に中国主導で米国排除の構図ととらえることもできる。その視点に立つと、日韓が連携し、米国と中国の両方を天秤にかけて、米国がアメリカナイズを強要してきたら「そんな態度なら日中韓FTAの方を重視しますよ」と言い、中国が真綿で首を絞めて影響力を行使するなら「米国を大事にしたい」と言うバランス外交ができるはずだ。だが実際のところ、日本も韓国も政権に対米従属一辺倒の派閥が強く、バランス外交は不可能だ。


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