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「田中宇の国際ニュース解説」2016年の記事一覧


これより後の記事(2017年の記事)

欧州の難民危機を煽るNGO
 【2016年12月29日】 リビアからイタリアへの地中海をわたる経済難民(不法移民)の流入を、欧州のNGO群が支援している。リビアのマフィアがアフリカ全土から勧誘して有料で連れてきた不法移民をリビア沖の領海の外れまでゴムボートで運び、それをNGOの船が引き取ってイタリアの港まで運び、NGOが欧州の難民危機を扇動している。難民流入が増えるほど「欧州リベラルエリート層の最後の希望」である独メルケル首相の人気が下がり、EU各国の反エリートな極右極左勢力が政治台頭する。

トランプの就任を何とか阻止したい・・・
 【2016年12月26日】米大統領選でのトランプの当選後、軍産複合体・諜報界・マスコミ・民主党が結託し、何とかトランプの大統領就任を阻止しようと動いている。いくつかの州で再開票が行われたが、結果は変わらなかった。12月19日の選挙人投票で、トランプへの投票が義務づけられている選挙人を翻心させる試みも行われたが失敗した。ロシアが偽ニュースの対米発信や民主党幹部のメール暴露によって不正にトランプを優勢にして勝たせたとする報告書を諜報機関CIAが出したが、主張は根拠が薄い。CIAはオバマに命じられ、トランプ敵視の自滅策をやらされている。

アレッポ陥落で始まった多極型シリア和平
 【2016年12月23日】ロシアは、全員テロリストと化したシリアの反政府勢力のうち、武器を捨てる勢力を正当な野党とみなすメカニズムを作り、反政府勢力とアサド政権の和解交渉を露トルコイランの主導で進めている。和解交渉はカザフスタンの首都アスタナで開かれる。アスタナ会議には、これまで停戦会議を主導してきた米国や国連が呼ばれていない。米欧国連はアサド打倒に固執し、内戦を悪化させただけだ。米国や国連は、腹いせに「アサドの軍が虐殺をやった」と歪曲的・針小棒大に騒ぎ、その裏でロシア主導の現実的なシリア和平が静かに進んでいる。ロシアは、アフガニスタンでも米国抜き・露中イラン協調の新たな内戦終結策を開始し、覇権の多極化を進めている。

トランプのポピュリズム経済戦略
 【2016年12月17日】 レーガン主義の元祖であるスティーブン・ムーアが「共和党がレーガン主義の党だった時代は終わる」「共和党は、レーガンの保守主義でなく、労働者を重視するトランプのポピュリズムの政党にならねばならない」と主張している。トランプが、選挙戦で掲げた政策をそのまま大統領として実行し、共和党がそれを党の長期政策として受け入れると、今後の共和党が「ポピュリズムのトランプ労働者党」になる。これがうまくいくと、トランプは再選され、議会も共和党の優勢が続く。

トランプの経済ナショナリズム
 【2016年12月13日】 トランプは、これまでの覇権運営優先・国内実体経済の発展軽視の風潮を破壊し、米国の覇権を放棄する代わりに、国内実体経済の発展を最優先する経済ナショナリズムをやろうとしている。覇権優先の体制下で、意図的に諸外国に無償供与されてきた「米国民に商品を売る権利」を、米国民を雇用する米企業の手に引き戻そうとしている。米国が意図的にないがしろにしてきた国内産業の振興を進め、外国勢でなく米国の(国際企業でなく)土着企業を儲けさせる政策が奏功すると、米経済は意外な成長を始める。成長が始まれば、大規模なインフラ整備が超インフレにつながらず、むしろ成長を後押しする。

見えてきたトランプの対中国戦略
 【2016年12月11日】 トランプは、一党独裁や民主活動家弾圧、南シナ海、台湾、チベット、ウイグルなど、これまで米国が中国の問題点として批判してきたことを全てすっ飛ばし、全く問題ないと言っている。トランプは、米中は世界の2大経済大国であり、世界で最も大事な二国間関係なのだから、米中関係を早く改善することが必要だと述べている。

プーチンとトランプがリビアを再統合しそう
 【2016年12月8日】 リビアは、シリアと並び、オバマ政権の失策の象徴である。だがリビアは今後、トランプがプーチンと協力することで、再統合を成し遂げる可能性が見えてきている。ロシアがリビア東部の軍勢を支援すると、リビア内戦は、西部の優勢から東部の優勢、同胞団の優勢から反同胞団の優勢へと転換する。ロシア軍がリビア東部のベンガジに基地を作る予定との指摘もある。リビアの多くの勢力が、シリア内戦を成功裏に終結させつつあるロシアがリビア内戦も仲裁することを歓迎している。これまで西部のムスリム同胞団を支援していた米国は、トランプの就任とともに東部の反同胞団な勢力を支援するようになり、ロシアと歩調を合わせる。

進むシリア平定、ロシア台頭、米国不信
 【2016年12月7日】 露シリア軍は、シリア全土のアルカイダをイドリブに追い込んで集める作戦だ。シリア各地の町や村で、シリア軍の攻撃を受けて追い出されたアルカイダの多くはイドリブに移動している。露シリア軍は、しばらくイドリブを放置する予定だ。露アサドは、アルカイダを穏健派と故意に誤認し続ける米政府を逆なですることを避けつつせず、イドリブ以外のシリアの安定化や再建を加速できる。トランプは「シリアに穏健派などいない。米政府は馬鹿げた誤認をしている」という趣旨の発言を繰り返しているので、いずれ米政府の誤認は解消される。そうしたら、露シリア軍がイドリブのアルカイダを掃討するだろう。

OPEC減産合意の深層
 【2016年12月4日】 OPECとロシアが15年ぶりに減産協定を決めた。だが、ロシアもイランもサウジも減産する必要がない。増産の一部をあきらめるだけだ。「減産」という言葉が報じられるだけで原油相場が急騰した。イランとサウジは少し歩み寄り、それを実現したロシアの覇権が上昇した。石油価格の再上昇は、ロシアのプーチンから米国のトランプへの、カネのかからない「就任祝い」にもなっている。

偽ニュース攻撃で自滅する米マスコミ
 【2016年12月1日】 米マスコミの多くは10年来、歪曲報道が増え質が低下している。マスコミの質が落ちるほど、米非主流派のニュースサイトが、多くの人に頼りにされている。それらをまるごと偽ニュースとみなすワシントンポストの記事は、ライバルをニセモノ扱いし誹謗中傷することで、自分らマスコミを有利にしようとする意図が見える。だが、今回のような過激で稚拙なやり方で非主流派メディアを攻撃し続けるほど、マスコミ自身の信頼がさらに下がり、知名度が低かった非主流派メディアへの注目度や信頼性を逆に高めてしまう。

マスコミを無力化するトランプ
 【2016年11月29日】 トランプの戦略は、バノンが経営する反エスタブ・反リベラルな右派ニュースサイトであるブライトバートを、エスタブ・リベラルなマスコミに噛みつかせ、戦わせる策だ。マスコミは、バノンを「差別主義者」「危険人物」と酷評しているが、バノンは権力を背にしており、いずれマスコミは沈黙・黙従する。エリートなマスコミは、これまで軽蔑してきたやくざで反主流な言論サイトと戦わされて消耗した挙句、トランプに媚を売って屈服せざるを得なくなる。

トランプ・プーチン・エルドアン枢軸
 【2016年11月27日】 ドナルド・トランプは、まだ大統領に就任していないのに、シリアやイラクでISISやアルカイダを退治する国際軍を米露主導で編成することについて、現職のオバマ政権をすっ飛ばし、すでにロシアやトルコなどと協議している。米露土の3人のワルガキ独裁者の枢軸が標的とするのはISカイダだけでない。3人はもうひとつ「欧州のエリート支配体制」を共通の標的にしている。ドイツのメルケル首相が体現しているEUの体制を、3人は壊そうとしている。

中国の台頭容認に転向する米国
 【2016年11月22日】 トランプの国際政治顧問であるウールジー元CIA長官が「中国がアジアの現秩序に挑戦しない限り、トランプの米国は中国の台頭を容認する」と題する論文を出した。題名が意味するところは「中国は、日韓の対米従属を容認せよ。東南アジア諸国や豪州を無理に中国側に引き入れず、米国と中国の両方と仲良くしようとするのを受け入れよ。中国がそれらのアジアの現在の国際政治秩序を守るなら、トランプの米国は、中国の一党独裁や非民主制を批判しないし、中国が世界の中で台頭していくことを容認する。この交換条件は明文化されず、不文律として具現化される」というものだ。

中央銀行の独立を奪う米英
 【2016年11月15日】 中央銀行の政府からの独立を不文律として守り、世界的な規範として育ててきたのは米英だ。米国は、世界各国の政府に中央銀行への介入を許さない一方で、米連銀が世界各国の中央銀行を支配する中銀ネットワークを強化し、金融覇権体制の土台としてきた。今回、米英が自国の中銀の独立を剥奪し始めたことは、覇権システムの改定を意味しそうだ。

トランプとロシア中国
 【2016年11月14日】 トランプが、ロシア敵視を不合理だとしてやめようとしている一方で、中国敵視を合理的と考えて続けるということがあるだろうか。米中関係は、米露関係よりも、はるかに経済や金儲けが絡んでいる。ロシア敵視をやめるのがトランプにとって自然な目標だとしたら、中国敵視をやめるのも自然な目標だ。米国が中国敵視を続けないなら、中国敵視を前提の価値観として維持されている日韓への米軍駐留や、日韓の対米従属に対する支持・支援も、米国がやめていくことの中に入る。就任直後のトランプは日韓の対米従属を支持・賞賛しても、それがずっと続くとは考えにくい。

米国民を裏切るが世界を転換するトランプ
 【2016年11月11日】 トランプの経済政策は、ブッシュ親子やレーガンの共和党政権がやってきたことのごたまぜの観がある。トランプは選挙戦で貧困層の味方をしたが、就任後の政策が金持ち層の味方になるだろう。彼は、クリントンより規模が大きい詐欺師だ。米国内的にはそういうことだが、世界的には、レーガンが「冷戦を終わらせた人」であるように、トランプは911以来続いている米国の軍産支配を終わらせるか、弱体化させるだろう。

トランプ当選の周辺 【2016年11月9日】

トランプが勝ち「新ヤルタ体制」に
 【2016年11月6日】 私が最近注目したのは「トランプが米大統領になると、ロシアのプーチン、中国の習近平との間で、これからの世界秩序に関するサミットを行い、米露中の影響圏の再配置が行われるだろう」という予測だ。これが正しいとしたら、大統領選でトランプが勝つと、世界は「新ヤルタ体制」と呼ぶべき新たな状況に転換する。米国が「非米側」に転向してしまうことでもある。

土壇場のクリントン潰し
 【2016年11月3日】 米大統領選に関し、クリントンを勝たせる方向で、多くの情報歪曲が行われてきた。だが結局のところ、土壇場になってクリントンの誇張された優勢がはがれ落ちる劇が演じられ、実勢に近いところへと世論調査が軟着陸している。

イスラエルのパレスチナ解体計画
 【2016年11月1日】 イスラエルは、ヨルダンに対する影響力を増強したうえで、ヨルダンが、西岸のバレスチナ自治政府を傘下に入れるかたちで「合邦」することを望んでいる。西岸地域は、イスラエルがパレスチナ人の居住地を分割し、幹線道路を分断するように入植地を作りまくった結果、地理的な統合性を失い、国家として機能できなくなっている。入植地によって寸断され、ぼろぼろになった西岸をヨルダンに押し付けるのが合邦の策略だ。

不正が濃厚になる米大統領選挙
 【2016年10月26日】 米政界にとって大事なことは「(実は談合や不正に満ちた「2党独裁」である)2大政党制のシステムを壊さず維持すること」だ。不正の結果として落選した候補者がとことん選挙不正と戦ってしまうと、2大政党の談合体制に回復不能な亀裂が入りかねない。だから、不正の指摘をしつこく続ける議員や党員は、自分の党の上層部から圧力をかけられ、主張をやめざるを得なくなる。プロのベテラン政治家であるサンダースは、2大政党制の不文律を重んじて、自分が不正に落とされても文句を言わなかった。だがトランプは違う。不文律など破ってやると、最初から宣言している。

モスル奪還めぐる米国の意図
 【2016年10月23日】 米軍やイラクが開始したモスル奪還戦について「米国は、モスルを奪還してISをイラクからシリアに追い出し、これから露シリア軍との戦いになりそうなシリア東部にISを結集させて負けないように強め、ISがシリア軍に勝ってアサド政権を転覆するところまでやらせたい」という解説が出ている。米政府は以前から何度も「間もなくモスル奪還戦に入る」と宣言し、ISに対し「シリアに逃げ込むなら今のうちだ」という信号を送り続けた。米国は、イラクにいる9千人のIS兵士が無事にシリアに移動できるよう、安全回廊を用意してやった。

米選挙不正と米露戦争の可能性
 【2016年10月18日】 クリントンが(不正によって)当選すると、シリアで米露が交戦して敵対を急増させうる。米国内で挙国一致を強要する戦時体制が強まり、トランプが火をつけた反軍産運動を潰せる。経済面でも、当局が相場をテコ入れする策をおおっぴらにやれる。米露の直接交戦は核戦争に直結しやすく非常に危険だが、余裕がなくなった軍産は、人類を核戦争の危機に直面させることをいとわず、米露交戦に踏み切るかもしれない。

多極派に転換する英国
 【2016年10月16日】 世界運営を200年やってきた英国の上層部は、ふつうの諸国の上の方と異なり、自国のことだけでなく、世界の政治経済システム、覇権構造の改善を考えて実践している。EU統合の加速と、もっと広域で見た場合の「多極化」は、短期的に英経済の損失や米英覇権の喪失というマイナスを生むが、長期的には世界を安定させ、(今のような金融バブルでなく実体的な)経済発展につながる。

米覇権の行き詰まり
 【2016年10月10日】 トランプが当選したら軍産複合体の危機だ。だから軍産(マスコミや議会)は、必死でトランプを蹴落とそうとしている。だが、草の根からの強い人気を維持するトランプを落選させるのは難しい。投票日が近づくにつれ、トランプ潰しの動きが露骨になり、米国の民主主義がおかしなことになっていると、より多くの人が気づく。軍産の延命のあがきが、米国に対する国際信用の基盤になっていた民主主義を破壊しようとしている。

フィリピンの対米自立
 【2016年10月5日】 ドゥテルテが、国内の既存の支配層が持っていた隠然独裁的な権力を破壊し、彼なりの「真の民主化」を進めていく方法として、対米従属からの離脱や、中露との協調強化がある。対米従属を国策に掲げる限り、ドテルテよりアキノ家など既存の支配層の方が米国とのパイプがはるかに太く、ドテルテはそのパイプに頼らざるを得ないので、権力構造が従来と変わらない。だが逆に、対米自立して中露などに接近すると、その新たな体制の主導役は、新規開拓を手がけたドテルテ自身になり、既存の支配層の権力を枯渇させられる。

米司法省が起こしたドイツ銀行の危機
 【2016年10月3日】・・・米司法省は、米国内の大手銀行に和解金を払わせた際、静かに事を進め、今回のドイツ銀に対してのような大騒ぎを誘発していない。今回の件は、米国からドイツや欧州勢に対する意地悪に見える。意地悪だとしたら、簡単に交渉が終わって安い和解金で決着せず、最終的な和解金が予測の範囲内だとしても、そこに行きつくまでの交渉が長引く。交渉が難航するほど、金融システム危機への発展やトランプの勝利が現実のものになっていく。

シリアでロシアが猛攻撃
 【2016年9月30日】 ロシアは、今回の米露主導の停戦が、シリアでの最後の米露協調の試みであると考えていた。それが米政権内の好戦派の妨害で失敗し、ロシアは「米国はISカイダを擁護するばかりで戦う気がない。米国と協調しようとする限り、シリア内戦を終わらせられない」と結論づけた。ロシアは米国に気兼ねするのをやめ、シリア政府、イラン系勢力と協力し、本気のテロリスト退治に乗り出した。それが、9月27日からの東アレッポへの猛攻撃の意味だ。ロシアは、オバマの任期末までにシリア全土から反政府武装勢力を一掃する気だ。

優勢になるトランプ
 【2016年9月27日】 9月26日のトランプとクリントンの討論会の勝敗は、私が見るところ、おおむね互角だ。クリントンの場合、互角でしかないのはまずい。クリントンの売りは、知識と経験、政策立案の上質さだ。討論でトランプの無策や無知、粗野、偏見性を十分に引き出せればクリントンの勝ちだった。討論が互角なら、これまで何十年も政策立案の業界にいて今の米国の悪い状況を作ったクリントンより、政界の常識を打ち破って出てきたトランプにやらせた方がいいという話になる。互角の討論は、クリントンの現職性によるマイナスを差し引くと、トランプの優勢につながる。

中国を世界経済の主導役に擁立したIMF
 【2016年9月22日】 中国の台頭が目立っているので、世界を多極化することや、中国がアジアの覇権勢力になることが、以前からの中国の国家戦略だったかのような印象を受ける。だが実際はそうでなく、IMFが中国人民元の国際化やSDR入りを希望し、中国が多極化の推進役になることを、IMFが中国に押し売りしたのが実情だ。

シリア内戦がようやく終わる?
 【2016年9月18日】 中東において、スンニ派の雄であるサウジは常に多数派で、数の力で押せばいいだけだ。対照的に、シーア派のイランと、ユダヤ人のイスラエルは常に少数派だ。表向きの数の力が弱いので、裏で外国に傀儡勢力を作っることで劣勢を補ってきた。アルカイダやISは、自分たちを支援するサウジを「金づる」としてしか見ていない。イランは、傘下の勢力に尊敬されているが、サウジは嫌われている。これがサウジの弱点になっている。

得体が知れないトランプ
 【2016年9月16日】 トランプが当選後どんな政策を実際に進めるか不透明だ。政策の詳細を明言せず、大きな裁量を残したまま当選を狙っている。民主主義に反しているが、軍産や石油利権など圧力団体の介入を受けずに大統領になれば、ゆがんだ政治から脱却できる。その一方でトランプは、自身の発言と食い違う方針の軍産や石油利権の代理人を顧問に招き入れ、選挙を邪魔されないようにしている。その結果、トランプは得体の知れない候補になっている。

アウンサンスーチーと中国
 【2016年9月14日】 00年代になり、中国政府がインド洋に出るルートなどミャンマーの地政学的な利点を重視するようになると、ミャンマーの内政的な安定が中国にとっても重要になり、中国側がミャンマーの少数民族を儲けさせ武装させて軍政との内戦を維持・扇動し、ミャンマーを不安定なままにしておく従来の構図が、好ましくないことに変質した。この変質の上に、中国がミャンマー軍政とスーチーの和解を後押しする今の流れが出てきた。

定着し始める多極化
 【2016年9月10日】 中国もロシアも、自分から米国の覇権を倒して奪取しようと動いているわけでない。米国が中露を敵視し続けつつ、好戦的に世界秩序を壊し続けるので、仕方なく「もうひとつの国際秩序」を構築しているだけだ。米国が中露敵視をやめて、中露の協力も得つつ、米国覇権体制を維持する動きをもっと早くやっていたら、多極化など必要なかった。しかし、もう遅すぎる。

ロシアと和解する英国
 【2016年9月7日】 英国が敵視をやめると、世界中のロシア敵視が雲散霧消し、露敵視に立脚していたNATOや欧米、英米の同盟関係、米国の欧州ユーラシア支配も、脆弱化・有名無実化してしまう。メイ政権の英政府は、そのあたりの意味を十分に知っている。だからこそ、できるだけ目立たないように対露和解を進めようとしている。

さよなら先進国
 【2016年9月4日】 QEやマイナス金利が限界に達し、金融危機が再発すると、米日欧とも経済が大幅に悪化し、相対的に新興諸国に追いつかれ、「先進国」はまるごと「先進」でなくなる。「さよなら先進国」である。そのような中で、米国覇権が崩壊し、多極化が進む。中銀群の延命策は、いずれ必ず限界に達し、その際に必ず金融危機が再燃する。だから、この非常に暗い未来像は、非常に高い確率で具現化する。

中東和平に着手するロシア
 【2016年8月30日】 プーチンが中東和平に乗り出す理由は「イスラエルに恩を売る」ことに加えて「欧米が延々と失敗し続けた中東和平をプーチンが短期間に成功させ、世界を驚嘆させ、ロシアの国際信用を引き上げる」ことがある。ロシアに頼って自国の長期的な安全を確保したいネタニヤフは、ロシア主導の新たな中東和平を成功させてプーチンに花を持たせる何らかの策をすでに考えているのでないか。

米大統領選挙の異様さ
 【2016年8月28日】 米大統領選挙の異様さトランプの健闘は、彼の政治力が異様に強いから起きているのでない。911以後の米政界が、好戦的な覇権主義をやりすぎて失敗した結果、軍産の支配力が潜在的に弱くなり、それにトランプが便乗して大成功している。もし今回の選挙でクリントンが勝ち、とりあえず軍産の支配が維持されても、軍産の低落傾向は今後も変わらないので、2020年や24年の大統領選挙に、トランプの手法を真似た反軍産の強力な第2第3の候補が出てきて、いずれ軍産系の候補を打ち破る。トランプは今年勝っても負けても、米政界の状況を不可逆的に大きく変える。

いずれ利上げを放棄しQEを再開する米連銀
 【2016年8月24日】 いずれ中銀群による超緩和策の相場上昇力が減り、投機筋が作る相場の下落力が増し、相場が崩れる。利回り上昇がジャンク債から米国債にまで波及し、グリーンスパンが指摘するデフレから超インフレへの劇的な転換が起こる。そうなる前に、米連銀は利上げをやめてQEを再開して相場をテコ入れする。だが米国のQE再開(QE4)は、危機の再発を1-2年先送りするだけだ。

オバマの核先制不使用宣言
 【2016年8月22日】 長期的に対米従属からの脱却傾向である英仏と対照的に、日本は、対米従属を続けられなくなることをいやがって、オバマの核先制不使用に反対している。日本政府は、核廃絶を希求しているように見せかけてきたが、実のところ核廃絶など望んでおらず、ブッシュの米国が核の先制使用を振り回し、北朝鮮が脅威を感じて核武装する事態を歓迎していた。オバマの主導で世界が核先制不使用を宣言すると、北朝鮮や中国との緊張が緩和され、米国が「米軍がいなくても日本は自衛できる」と考える流れになり、在日米軍が撤退傾向となり、対米従属を続けられなくなる。だから日本はオバマの核先制不使用の計画に反対している。戦後日本の平和主義は対米従属のためのものであり、偽善だった。

すたれゆく露中敵視の固定観念
 【2016年8月20日】 ロシアやトルコは敵味方の関係に固執せず、現実主義で動いて中東を安定化している。対照的に米国は、敵味方関係に固執し、露中イランなどに対する固定観念的な敵視から米国自身を解放できず、失敗している。これは米国が下手くそだからでなく、敵が強いままの方が軍産複合体の優勢が保たれるからという、意図的なものだ。しかし失策が続いた結果、米国は覇権を維持する余力を失う一方で、中露イランやトルコなど非米諸国が台頭し、米国の中に、中露などへの硬直した敵視をやめて協調し、世界戦略の負担を減らすべきだという、現実主義の考え方が出てきている。

ロシア敵視とドーピング
 【2016年8月18日】 マクラーレン報告書は、ロシアをまるごとリオ五輪から締め出す目的が先走った「拙速」の観がある。このため、IOCや各種目の国際連盟を納得させることができず、陸上と重量挙げ以外の分野でロシア選手の出場を許す結果になった。独ARDの番組と昨年11月のWADA報告書は、ロシア政府にとって反論不能な強い論拠を持ったものだったが、今年のNYタイムスの記事とWADAマクラーレン報告書は、米国主導のロシア敵視策が目立ちすぎて稚拙さが露呈し、成功しなかった。

ロシア・トルコ・イラン同盟の形成
 【2016年8月15日】 プーチンは、クルドをえさにエルドアンを引っ張り込むことで、トルコという、NATOにとって大事な「南の守り」を、欧米側からロシア側に転向させることに成功した。トルコの協力により、シリアの戦後の再建、イラクのテロ排除、非米化、安定化もやりやすくなった。トルコの仲間入りを機に、ロシア、トルコ、イランの3カ国の同盟関係が一気に強化されようとしている。シリア周辺だけでなく、北のコーカサスでも3カ国による安定化策が開始されている。

米大統領選と濡れ衣戦争
 【2016年8月4日】 軍産複合体がロシアなどに濡れ衣をかけて敵視し、クリントンが軍産の敷いた路線に沿って大統領になり、濡れ衣戦争を続けようとしている。対照的にトランプは、軍産の濡れ衣戦争を中止し、軍産そのものを無力化し、ロシアと協調し、軍産が育てて強化したISISを倒そうとしている。軍産に楯突くトランプは、軍産傘下のマスコミなどに非難酷評されるほど有権者の支持を集める仕組みを体得している。軍産は危機感を強め、ヒステリックになっている。軍産バブルと、中央銀行バブルの同時崩壊が近づいている。

米国の緩和圧力を退けた日本財務省
 【2016年7月31日】 黒田の日銀や日本財務省は、QEやマイナス金利の悪影響をこれ以上看過すると、金融機関の経営難による金融危機や、日本国債に対する信用失墜(金利高騰)など破滅的な事態になりかねないと判断し、QEを軟着陸的に縮小し、金利をプラス(ほぼゼロ)に戻していく姿勢に転じることにしたようだ。軟着陸がうまくいくかどうか非常に危ういし、転換するにはもう遅すぎるかもしれない。だが、遅すぎても転換を試みた方がましだ。

中東を反米親露に引っ張るトルコ
 【2016年7月26日】 エルドアンは、欧米の一部になることを目指してきたトルコのこの百年の世俗リベラル主義への信奉を丸ごと破壊し、百年間使われていなかったイスラムに基づく政治社会システムを再導入する試みをやろううとしている。そのための大胆な策として、今回のクーデター騒ぎが使われている。

米覇権への見切りとトルコのクーデター
 【2016年7月22日】 EUと英国、トルコは、たがいに離別したり喧嘩したりしているくせに、全員が、米国覇権の下にいることをやめて、多極化に対応する動きを開始している。この流れは冷戦終結よりも大きな動きになっていく。冷戦終結は、米国の支配領域が世界の半分(西側)から全部になった動きだが、今回のは、その米国の世界支配が崩れ、BRICSなどいくつもの地域覇権国が立ち並ぶ、人類上初めての世界体制へと転換していくものだ。

英離脱で走り出すEU軍事統合
 【2016年7月20日】 EUがNATOから自立するのは、表向き、NATOの軍事費の大半を出してきた米国に頼りすぎて申し訳ないのでEUも軍事費を増やすことにしたという話になっているが、同時にEUは「NATOから独立した軍事戦略を持つ」と言い始めている。EUの世界戦略は「米国と健全な関係を保つためにも、EUの軍事力の統合と強化が必要だ」と書いているが、これは要するに、米国(NATO)の傘下にいると、過激な好戦策を突っ走る米国に追随する不健全な状態が続くので、NATOから自立することにした、と読める。

逆効果になる南シナ海裁定
 【2016年7月17日】 米国と並ぶ大国を自称する中国は、当然ながら裁定を無視する。中国は、米国の真似をしただけだ。裁定を無視されても、米国は中国を武力で倒せない。EUなど他の大国は、米国に求められても中国を非難しない。EUは多極化を認知し「大国(地域覇権国)どうしは喧嘩しない」という不文律に沿って動き始めている。中国が、米国と並ぶ地域覇権国であることが明らかになりつつある。米国は、過激な裁定を海洋法機関に出させることで、中国を、自国と並ぶ地域覇権国に仕立て、多極化、つまり米単独覇権体制の崩壊を世界に知らしめてしまった。気づいていないのは日本だけだ。

腐敗した中央銀行
 【2016年7月13日】 自爆的な任務を子分たちに押し付けて親分だけ生き永らえようとする米連銀の不正行為は、米日欧全体の中央銀行の腐敗を加速した。雇用統計やGDPを粉飾し、QEの資金で株価をテコ入れして、経済が好転しているかのように見せることが横行している。腐敗が最もひどいのが米国と日本だ。日銀自身は不健全なQE急拡大に反対したが、対米従属の日本政府が日銀総裁の首をすげ替えてQE拡大に踏み切った。不正はどんどん拡大し、日銀による株価つり上げが常態化した。

外れゆく覇権の「扇子の要」
 【2016年7月12日】 EU離脱可決とチルコット報告書は、英国が米国の世界戦略に影響を与えて覇権体制を永続化する従来の世界秩序の終わりを象徴する2つの動きだ。諸大国を米国の下に束ねていたハトメが外れるほど、諸大国は自国の地政学的な利益に沿って動く傾向を強めると同時に、諸大国がBRICSやG20や国連などのもとで安定を確保する多極型世界体制への移行になる。米国自身も米州主義へと動いていく。

加速する中国の優勢
 【2016年7月8日】 EU離脱を可決した後の英国は、中国だけでなく、インドや他の旧英連邦諸国、米国などと貿易協定を結ぼうとしている。英上層部が最も期待するのはインドでなく、中国との関係強化だ。その理由は、中国が、きたるべき多極型世界の大国間ネットワークであるBRICSやG20においてリーダー格で、短期の経済利得より長期の地政学的利得を考えて動いているからだ。英国は、近現代の世界システムを創設した国だ。英国が本気で中国の世界戦略の立案運営に協力するなら、中国にとって非常に強い助っ人になる。

欧米からロシアに寝返るトルコ
 【2016年7月4日】 エルドアンは、ロシアと仲直りする際の「おみやげ」として、難民危機を極限までひどくして、EUを解体に押しやったのかもしれない。外交専門家のダウトオール首相を辞めさせ、難民問題でのEUとの交渉を潰しつつ、外交政策の「常識外れ」をやるフリーハンドを得たエルドアンは、そのうち折を見てNATOからも離脱するかもしれない。EUを壊してロシアに再接近したやり口から見て、エルドアンは、トルコが抜けるとNATOが潰れるような仕掛けを作ってNATO離脱しかねない。

英国より国際金融システムが危機
 【2016年6月29日】 人々が「金融危機なんか起きない」と思っている間は、債券への信用が保たれて金利が上がりにくい。だからマスコミや金融界は、グリーンスパンやBIS、安倍晋三らによる金融危機への警告をかたくなに無視する。しかし、英国ショックや大銀行倒産などが起きると、一時的に信用が大きく失墜し、各国当局がそれらのショックを乗り越えられなくなると金融危機になる。危機が再来し、金利上昇がジャンク債から米国債にまで波及すると、グリーンスパンが予言する「デフレ(マイナス金利)から超インフレ(金利高騰)への突然の転換」が起きる。

英国が火をつけた「欧米の春」
 【2016年6月27日】 英国の国民投票は、英国と欧州大陸、そして米国という「欧米」の民衆が、エリート支配に対して民主的な拒否権を発動する事態の勃興を示している。英BBCは、国民投票前に「英国でEU離脱が勝つと、米国でトランプが勝つ可能性が高まる」「米英の状況は似ている」と報じた。かつてエジプトやバーレーンなどで、民衆が為政者の支配を拒否して立ち上がる「アラブの春」が起きたが、それはいま欧米に燃え広がり「欧米の春」が始まっている。

英国の投票とEUの解体
 【2016年6月22日】 EU残留を問う英国での国民投票を前に、欧州の大陸側では、EU統合を推進してきた上層部の人々が、英国の投票結果にかかわらず、すでにEUは政治経済の統合をこれ以上推進するのが無理な状態になっている、と指摘し始めている。

リーマン危機の続きが始まる
 【2016年6月16日】 日欧の中央銀行は緩和策を過激化している。世界の金利を史上最低に落とさないと、米国のジャンク債などが投資家の信用を失って買われなくなり、リスクプレミアムが急騰してしまう状態に、すでになっているのでないか。日欧の中銀が必死に自分たちを弱くしているので状況が緩和され、危機として認識されていないだけで、すでにドル崩壊、リーマン危機の再来、多極化につながる米覇権の瓦解が始まっているのでないか。

英国がEUを離脱するとどうなる?
 【2016年6月13日】 英国はEUを離脱すると、スコットランドに独立され、北アイルランドも紛争に逆戻りする。国際金融におけるロンドンの地位低下も不可避だ。欧州大陸では、EUへの支持が半分を切っている国が多いなか、英国が国民投票でEU離脱を決めると、他の諸国でも「うちでも国民投票すべきだ」という主張が強まり、相次いで国民投票が行われて離脱派が勝ち、EUが解体しかねない。そうした懸念はあるが、逆にだからこそ、英国で離脱派が勝ったら、英国がEUの政策決定に口出しできなくなることを利用して、独仏は全速力で財政や金融などの面の国家統合を進めようとすると予測できる。

いずれ始まる米朝対話
 【2016年6月9日】 自己資金なので好き勝手に言えるトランプは、ロシアや北朝鮮と話し合いたいと言いまくっている。ヒラリーはトランプの外交姿勢を酷評するが、内心うらやましいと思っているはずだ。彼女自身が大統領になったら、好戦派から現実策に静かに転換し、トランプと似たことをやりたがるだろう。次の米大統領が誰になっても、米朝の交渉が始まるのでないか。何も始まらない場合、北の核武装が進み、制裁だけして放置する米国の対北政策の破綻がますます露呈する。いずれ誰かが米国を代表して北との話し合いを始めざるを得ない。

バブルをいつまで延命できるか
 【2016年6月6日】 米日欧の中央銀行や政府の最近の姿勢からは、どんな手を使ってもバブルを再崩壊させないという強い意志が感じられる。マイナス金利やQEは永久に続けねばならない。やめたら株やジャンク債が売れなくなり、危機が再発する。年金や生保は給付金を払えず減額が長期的に不可避だ。日欧政府は、景気テコ入れの効果があるとウソをついてQEやマイナス金利策をやっているが、景気は改善されずウソがばれている。だが、もし選挙で政権が交代しても、QEやマイナス金利をやめられない。やめたら金融崩壊、経済破綻だからだ。

米国と対等になる中国
 【2016年6月4日】 世界のシステムが米国と中国で並立化するほど、米国は、中国とその傘下の国々を制裁できないようになる。米中は相互に、相手を倒すことができない関係になっている。中国は、米国と対等な関係になりつつある。軍事面では、南シナ海でいずれ中国が防空識別圏を設定し、米国がそれを容認する時が、米中が対等になる瞬間だ。中国は、国際社会のあり方を大きく変えている。

オバマの広島訪問をめぐる考察
 【2016年5月31日】 日本の権力を握る官僚機構は、軍産複合体の一部だ。軍産の言いなりになるように見せて、最終的に軍産を弱めるのがオバマの策だから、今回の広島訪問についても、安倍の人気取りの道具に使われるように見えて、最終的に軍産の一部である日本政府に打撃を与える何らかの意味がありそうだ。

G7で金融延命策の窮地を示した安倍
 【2016年5月28日】 米国の求めに応じ、財務省の黒田を日銀総裁に送り込んで過激なQE拡大をやらせたのは安倍自身だ。その安倍が今回、G7サミットの議論で「リーマン級の危機再発が近い」という見解を主張した。この主張が意味するところは、日銀の過激なQEがすでに限界に達しており、ドイツの財政出動など新たな延命策が追加されない限り、国際金融システムを延命できなくなってリーマン級の危機が再発するぞ、という警告だったと考えられる。

中東諸国の米国離れを示す閣僚人事
 【2016年5月24日】 ナイミ石油相の解任は、米国の金融界や石油産業との「果し合い」に注力するという、サウジ権力者の決意表明である。同様に、イスラエルで親露極右のリーベルマンが国防相に就任することも、イスラエル権力者の米国離れを物語っている。

金融を破綻させ世界システムを入れ替える
 【2016年5月20日】 世界や国家といった巨大システムの運営者が自分のシステムを破壊するとしたら、それは別のシステムと入れ替えようとする時だ。国際秩序や国家のような、大きくて自走的なシステムを入れ替える場合、構成員全体の同意を得て民主的に入れ替えを進めるのはまず無理だ。今のシステムに対して影響力を持つ人々(エリート)の多くが入れ替えで損をするので、彼らが猛反対して計画を潰しにかかる。既存のシステムを助けるふりをして破壊し、壊れたので仕方なく新たなシステムと入れ替える形をとった方がうまくいく。

金融バブルと闘う習近平
 【2016年5月16日】 世界経済における米中の談合体制が終わったのは14年秋、米連銀がゼロ金利策をやめることを決め、QEを日欧に肩代わりさせ、利上げの方向性を打ち出した時だった。米国の金利上昇は中国の調達金利の上昇につながり、設備投資や株のバブル崩壊を招きかねない。習近平は、経済現場の幹部たちの反対を押し切り、設備投資の縮小や、株価の下落誘導の政策を開始した。中国の上層部での経済政策をめぐる暗闘を示す人民日報の「権威人士」の記事の裏に、米国のゼロ金利資金で中国が設備投資バブルを膨らませる米中談合の破談がある。

トランプ台頭と軍産イスラエル瓦解
 【2016年5月11日】 トランプが席巻した結果、共和党で見えてきたのは、これまで合体して共和党や米政界を支配してきた「軍産」と「イスラエル」が、別々の道を歩み出して分裂している新事態だ。軍産はNATO延命のためロシア敵視の道を暴走しているが、イスラエルは隠然と親ロシアに転じている。この傾向は長期的で、今後常態化する。軍産イスラエルが米国を支配した時代の終わりが来ている。トランプは、軍産イスラエルのプロパガンダ力の低下を見破り、大統領に立候補して国民の支持を集め、軍産を破壊した。米国は民主主義が生きている。

潜水艦とともに消えた日豪亜同盟
 【2016年5月6日】 潜水艦の機密を共有したら始まっていたであろう「日豪亜同盟」について、日本は、中国敵視と対米従属の機構としてのみ考えていたのに対し、豪州は米中間のバランスをとった上での、対中協調・対米自立も含めた機構と考える傾向があった。この点の食い違いが埋まらず、豪州は日本に潜水艦を発注しないことにした。日本ではこの間、豪州との戦略関係について、中国敵視・対米従属以外の方向の議論が全く出てこなかったし、近年の日本では、対中協調や対米自立の国家戦略が公的な場で語られることすら全くないので、今後も豪州を納得させられる同盟論が日本から出てくる可能性はほとんどない。「日豪亜同盟」のシナリオは、日本の豪潜水艦の受注失敗とともに消えたといえる。

911サウジ犯人説の茶番劇
 【2016年4月29日】 911に対する米当局の関与を完全隠蔽する米議会が、サウジ当局の関与だけを示唆したがるのは、サウジに対する嫌がらせをしたいからだ。911をめぐる政治劇の中で、サウジをことさら悪者にするのは、おそらくイスラエル系の勢力からの圧力だ。イスラエルとサウジは、米国の中東戦略の立案過程においてライバルどうしだ。オバマ自身、サウジとイスラエルが米国の中東戦略をねじ曲げていると嘆いている。

IMF世銀を動かすBRICS
 【2016年4月25日】 BRICSの発言力が強まる今後のIMFは、QEやマイナス金利策の行く末にある大危機の発生を止められないものの、大危機が起きて米国中心の金融と通貨のシステムが再崩壊した後の国際金融システムを再構築することはできる。リーマン危機の直後、G20がG7に取って代わり、IMF世銀がG20の多極型経済体制の運営事務局になることが決まった当時、ドルに代わる基軸通貨体制としてIMFのSDRを使う案が出された。これまで「SDRなど使い物にならない」と一蹴される傾向があったが、いずれドル基軸の崩壊感が強まると、SDRを使うしかないという話になる。

暴かれる金相場の不正操作
 【2016年4月19日】 米連銀がNYで金相場を積極的に不正操作し始めた以上、ロンドン金相場の不正操作の体制は必要なくなった。ロンドンの不正操作体制は、時代遅れになった後、当局の捜査対象となった。時代遅れになったからといって、これまで何十年も黙認してきたロンドン金相場の不正操作を、捜査して不正を暴露する必要はない。米当局は、自分で新たな不正操作を開始した上で、古い不正操作の体制を犯罪として検挙するという、おかしなことをやっている。

欧州の対米従属の行方
 【2016年4月15日】  トランプが指摘するまでもなく、軍産はとっくに時代遅れだが、なかなか潰れず非常にしぶとい。その原因は、米国側でなく、同盟国の側にある。欧州や日韓といった同盟諸国はこの間、でくのぼうのように、無茶苦茶な米国(軍産)に従属し続けてきた。その理由として、米国に逆らったら政権転覆や経済制裁を受けるという恐怖心もあるだろうが、それ以上に大きいと考えられるのが、米国が無茶苦茶でも見て見ぬふりをして、世界の運営(覇権)を米国に任せておいた方が楽だという同盟諸国側の怠慢さ(現実主義)だ。

利上げできなくなる米連銀
 【2016年4月13日】 挺身的なドル救済策として日欧が何か奇策を今後やれるとしたら、それは欧州でなく日本だ。安倍政権は、日銀がQEで買い支えた日本国債の一部について、償還までの長さを無期限に延長し、名目インフレ値より低い固定金利を設定して事実上のゼロ金利にすることによって「ゼロ金利の永久債」に転換する「国債の帳消し」を検討しているという。

ナゴルノカラバフで米軍産が起こす戦争を終わらせる露イラン
 【2016年4月7日】 ロシアとイランは、シリアで結束してテロ組織を攻撃してアサド政権を守る安定化策をやって成功しつつあり、同様の結束で、ナゴルノ・カラバフ紛争を解決しようとしている。米国の軍産が引き起こす国家破壊を露イランが阻止して解決に持っていく構図が、シリアに続いてコーカサスでも繰り返されている。露イランがアゼルバイジャンのアリエフ大統領を説得して紛争の再燃を防げれば、その後のコーカサスは米国でなく、露イランの影響下に入る傾向を強める。

世界と日本を変えるトランプ
 【2016年4月2日】 オバマとトランプの世界戦略はよく似ている。両者とも、米国が軍事で国際問題を解決するのはもう無理と考え、米国に軍事的解決を求めてすり寄ってくる同盟諸国にうんざりし、好戦策ばかり主張する外交専門家(=軍産)を嫌う反面、ロシアを評価している。オバマは、世界的な米覇権の退却と多極化の流れのうち、中東とロシアの部分だけぐんぐん進めた。世界の残りの、欧州とロシアのNATOの部分、中国と日韓朝などアジアの部分などについては、トランプが次期大統領になって継承して進めると考えると、スムーズなシナリオとして読み解ける。

テロと難民でEUを困らせるトルコ
 【2016年3月29日】 昨夏までの冷戦構造的な「トルコ(NATO、軍産、米欧)=善、ロシア=悪」の構図は、ロシアの半年間のシリア軍事支援を経て、今や逆の「ロシア=善、トルコ=悪」に転換している。今回ヨルダン国王の発言が報じられ、トルコが意図的に難民危機やテロをを引き起こしていることが暴露されたことは「トルコ=悪」の構図に拍車をかけ、ロシアの有利に拍車をかけている。トルコが引き起こした難民危機はEUを標的にしたものだが、EU自身はトルコが属する軍産やNATOの傘下から出られず、トルコを非難することもできず、不甲斐ない状態だ。

軍産複合体と闘うオバマ
 【2016年3月23日】 オバマ・ドクトリンを一言でいうと「中東からの米国の撤退」になるが、ドクトリンの記事はもっと別の読み方もできる。それは、オバマが大統領の7年間に、いかに軍産複合体と熾烈に格闘(暗闘)してきたか、ということだ。人類全体の善悪観を操作する権限を保持する軍産複合体との闘いは、正攻法で勝てない。戦後、繰り返し挙行されてきたのが、軍産が好む形だけの戦争を過激にやって泥沼のひどい戦争へと悪化させ、挙国一致で戦争をやめる策に転じたついでに他の諸大国に地域覇権を移譲して世界を多極型に転換し、軍産を無力化するという、回りくどい策だった。オバマも7年間それをやり、仕上げの時期に入っている。

中東を多極化するロシア
 【2016年3月16日】 米国覇権で食っている「外交専門家」たちは「多極型覇権なんてうまくいかない。大国間の対立激化で破綻する。覇権は単独体制しかない」と言うが、ロシアがシリアの停戦をまとめ、中東全体を安定化に導こうとしている現状を見ると、米国の単独覇権体制より、ロシアや中国が形成しつつある多極型の体制の方がうまくいくことがわかる。

ロシアとOPECの結託
 【2016年3月10日】 OPEC内の中小の産油諸国は「米国勢を追い詰めるのは結構だが、自分たちを財政破綻に追い込まない程度にしてくれ」と、ひどくなる原油安の中で嘆願している。これを放置すると、OPEC内のサウジの指導力が低下しかねない。そこに助け舟を出したのがロシアだった。

西岸を併合するイスラエル
 【2016年3月8日】 イスラエル政府は、レヴィ報告書を正式な政府の立場として受け入れていないが、パレスチナ人から土地を奪うことを合法化する報告書の提案は次々と具体的な政策になり、具体化の過程は間もなく一段落する。近いうちに、イスラエルが西岸でパレスチナ人の土地を奪うことが「合法的」なこととして加速する事態になる。

北朝鮮の政権維持と核廃棄
 【2016年3月6日】 懸念されるのは、金正恩が最終的に米国や韓国との緊張緩和に進む気があるかどうかだ。緊張緩和すると、北の政権が持たなくなるかもしれない。金正恩は、緊張緩和よりも政権維持を優先し、せっかく米国が核問題解決のハードルを大幅に下げているのに、難癖をつけてそれを受け入れない可能性がある。

中国経済の崩壊
 【2016年3月3日】 中国が米国の金融延命策に協力する構図が崩壊したのが、14年秋からの米連銀のQE終結・利上げ政策の開始だった。米国が引き締めに転じたため新興市場への投資が流出し、中国の設備投資のバブルが崩壊した。しかし中国は崩壊が先に始まっただけで、いずれ米国の金融危機が、中国の経済危機を抜くだろう。

ニクソン、レーガン、そしてトランプ
 【2016年3月1日】 ニクソン(共和党)からレーガン(共和党)への、アイデアリストが稚拙に(故意に)失敗した末にリアリストが席巻する隠れ多極主義的な展開が、ブッシュ(共和党)の911から今後(2020年ごろ?)にかけて繰り返されるとしたら、共和党のトランプがリアリストの外交戦略を掲げて次期大統領を狙うことは歴史的な意味がある。ロックフェラーや傘下のCFRが歴史の繰り返しを演出したいなら、次の大統領をクリントンでなくトランプにするシナリオだ。

シリアの停戦
 【2016年2月23日】 ISISとヌスラ戦線というテロ組織2派がアサド政権軍に勝っていた間は、反政府勢力のほとんどが2派の傘下にいた。だが昨秋から露軍の支援を受けてアサド軍が盛り返し、今では2派の方が敗北寸前まで追い込まれ、傘下にいた多くの勢力が離反し、アサド政権の側に寝返っている。今回の停戦は、この寝返りに拍車をかけるための、ロシアとアサドの策略だ。

ジャンク債から再燃する金融危機
 【2016年2月21日】 米国の社債市場を悪化させている原油安と世界不況は、今後も続く。原油相場は上がらない。米エネルギー産業の債券危機はひどくなる。ジャンク債の金利は上昇傾向だ。当局による株価操作も繰り返されるうちに効力が減じ、株式と社債の両方で崩壊傾向が強まる。リーマン危機の時は、QEという延命策があった。だが今後の金融危機は、その延命策が尽きたところで発生する。

米欧がロシア敵視をやめない理由
 【2016年2月17日】 米国だけでなく欧州諸国の上層部でも、EU統合派(親露派)と対米従属派(反露派、軍産)が暗闘している。米国に勧められて統合を始めた欧州は、米国に嫌われてまでEU統合を押し進めたいと思っていない。だから、米国の反露策が非常に理不尽でもそれにつき合い、EU統合を遅延させてきた。しかし、欧州が米国の傘下でぐずぐずしているうちに、米国の世界戦略はどんどん理不尽になり、欧州にとって弊害が増えている。シリアでは、大量の難民の発生と欧州への流入を止められず、EU統合の柱の一つである国境統合(シェンゲン条約体制)が破綻しかけている。ウクライナでの欧露対立で、対露貿易に頼ってきた東欧の経済難が進んでいる。

万策尽き始めた中央銀行
 【2016年2月12日】 今年に入って世界的に金融の混乱が加速し、それに対して日米欧の中央銀行が十分な対策(追加的な緩和策)をとれないことが明らかになり、混乱がさらに加速している。ジャンク債の金利上昇、株価の下落、円高ドル安、金地金の上昇など、金融延命策の終わりを思わせる逆流の事態が起きている。私の予測の中の「延命策の限界露呈」が起こり、その結果「金融システムのバブル崩壊」が始まったと考えられる。

サウジアラビア王家の内紛
 【2016年2月6日】 サウジ王政の最上層部の内紛は「親馬鹿な国王のわがまま」を超えた、国家戦略の行方をめぐる政争である。ナイーフ皇太子が対米従属派で、サルマン副皇太子(と父親のサルマン国王)は対米自立派であり、米国の覇権が低下するなか、サウジがどこまで米国の支配につき合い続けるかという国家戦略をめぐる戦いだ。ナイーフが次期国王になると、日本と同様、衰退する米国にどこまでも付き従っていく可能性が高い。対照的に、若いサルマンが王位を継ぐと、サウジは対米自立していき、多極型の世界体制のもとで、中露やイランと並ぶ地域大国として振る舞う傾向を強める。

日銀マイナス金利はドル救援策
 【2016年2月3日】 米連銀が日銀に求めていることは「ドルと米国債、米金融システム)へのテコ入れ」だ。日米間の金利差の拡大、ドル高円安、日本から米国への資金流入などが起きるなら「まともな」マイナス金利策でなくてもよい。日銀が実際にとった策は「マイナス金利」のイメージだけが喧伝され、銀行が日銀に預ける当座預金の金利はプラスのままという、銀行の経営に配慮する内容となった。

英国がEUに残る意味
 【2016年1月27日】 きたるべき米国の金融崩壊は、世界的な金融危機や不況を引き起こすが、長期的に最も国力が低下するのは米国自身だ。英国は、米英同盟を国家戦略にできなくなり、EUに残るしかなくなる。こうなってから英国がEUと交渉しても何も引き出せず、EU内で今よりずっと低い地位しか与えられずにEUに吸収されてしまう。だから英国は、米国が金融危機を再発する前に、早くEUと交渉し、できるだけ有利なかたちでEU残留を決めたい。

見えてきた日本の新たな姿
 【2016年1月23日】 安倍政権は昨年後半から、対米従属から微妙に外れる新戦略を、目立たない形ながら、次々ととっている。(1)日豪での潜水艦技術の共有化(2)従軍慰安婦問題の解決で再開された日韓防衛協定や北朝鮮核6カ国協議(3)安部首相による日露関係改善の試み(4)中国の脅威を口実とした東シナ海から南シナ海に向けた自衛隊の諜報活動(日本の軍事影響圏)の拡大、などである。

ドルの魔力が解けてきた
 【2016年1月13日】 中国を筆頭とする実体経済の悪化、米シェール産業の行き詰まり、中央銀行群の金融テコ入れ策の弾切れなど、いくつもの危険な動きが激化している。米国など先進諸国の株や債券がいつ不可逆的に暴落しても不思議でない。英国の銀行は最近、顧客に対し「手持ちの株や社債を早く売却した方が良い。パニック売りの状態になってからでは遅い」と忠告している。モルガンスタンレーやバンカメも、似たような警告を発している。

北朝鮮に核保有を許す米中
 【2016年1月11日】 オバマと同じ民主党の、クリントン政権の国防長官だったウィリアム・ペリーが驚きの提案をした。「北はすでに核兵器を持っており、廃棄させるのは不可能。現実的な新たな目標は、北に核を廃棄させるのでなく、北が開発した核を封じ込めることだ。(1)北にこれ以上の核兵器を作らせない(2)これ以上高性能な核兵器を作らせない(3)核技術を他国に輸出させないという『3つのノー』を新たな目標にすべきだ。この目標は中国とも協調できる内容で、米中で6カ国協議を再開できる」

「金融世界大戦」の中国語訳が台湾で出版されました(晨星出版社。訳:蕭辰倢)

イランとサウジの接近を妨害したシーア派処刑
 【2016年1月6日】 サウジ王政の上層部は、軍産複合体とつながった親米派と、イランやロシアとの協調関係を作っていきたい非米派が、ずっと暗闘している。イランやトルコと組んでイラクのスンニ派地域を安定させる計画に乗り、バグダッドの大使館を再開したのは非米派の策だろう。そして、ニムル師を処刑してイランとの関係を悪化させ、イラク安定化計画を妨害したのは親米派の策だと考えられる。

日韓和解なぜ今?
 【2016年1月4日】 慰安婦問題がなぜ今解決したのかという問いは、オバマ政権がなぜ今日韓に和解しろと圧力をかけたのかという問いだ。オバマは、任期最後の年である今年、北朝鮮の核開発問題を解決したいので、まず米国の力で最も簡単に解決できる日韓の和解を実現したのでないか。今回、米国からの圧力による慰安婦問題の解決、日韓安保協定の再交渉が始まったことは、2011-12年の「米国が出ていく流れ」の再開になるかもしれない。


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